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明治大・栗田大輔監督が語るJリーガー12人輩出の裏側。「強い明治」はいかにして作られたのか

2021.03.30

とあるクラブのスカウトが口にしていた言葉が印象的なので、紹介したい。

「J2で中位以上の強さがあるよね」

これは、2020年の明治大学を指して出てきたものだ。2019年、2020年と関東大学サッカーリーグ1部を連覇した明治大は、間違いなく大学サッカーを代表する存在と言える。プロ選手の輩出数を見れば誰もがそれに納得するだろう。

今季、明治から新卒でJリーガーとなった選手は12人に上る。1つの世代で3~5人がプロ入りすれば多いと見なされる中、この数字は異例中の異例と言っても良い。明治大はなぜ、ここまでの組織になったのか。チームを率いる栗田大輔監督が、Jリーガーとなった選手の成長や明治の“選手が成長する”環境の裏側について語った。

プロに行く選手が持つ共通点

――2020年度は12人のJリーガーを輩出しました。このような成果を出せる秘訣はどこにあるのでしょうか

 「いろいろな要素があると思います。まず、前提としていい選手が入ってきます。彼らが4年間で全力を尽くした結果、成長しているということ。『明治に行けばプロになれる』みたいなことも言われますが、僕がプロへの伝道師だったら全員Jリーガーになっていますよ(笑)。

 僕が教えているのは“人として”の部分。ゴミが落ちていたら拾うとか、挨拶をするとか。そういうことを当たり前にできる人間は、ベースとして1つひとつがきちんとできるようになる。今何をやるべきか、何をしなければいけないか。冷静に状況を分析して、駄目な部分を客観的に分析して改善して行動に落とし込める。それがピッチ上にも現れるんです。聞く・学ぶ姿勢がないと人は絶対に伸びません。明治は学生の間でそれらを追求していく関係があり、土壌がある。その結果として人として、選手として育っているのかなと。

 いい選手たちが努力をして、考え方、言い換えればアウトプットする力がしっかりしていればさらに伸びていく。コーチや監督の1つの指導をどう向き合わせて広げていき、行動に移して改善していく力をつけていくということですね。例えば、練習で指摘された1つのターンを次のプレーで改善できるかどうか。代々見ていて、プロになる選手はそれが速い。言われたことを自分で整理して改善してアウトプットするスピードは際立っていますね」

――選手で言うと、コンサドーレ札幌に加入した小柏剛選手は4年間主力で際立った存在感がありました。“ずっと凄かった”イメージがありますが、彼も変化があったと。

 「彼は人間的な部分で変わりました。もともと真面目でしたけど、自分から発信するタイプではありませんでした。その部分で欲が出てきました。本当の意味で日本代表を目指すのであれば、個性が強いライバルが多い中でも自分を出していかなければいけない。その中で遠慮していたらいけない。性格的な問題は仕方ないにせよ、プレーでは示していかないと駄目です。明治は対人練習が多い中で、強い個人にフォーカスをしていますが、小柏には個の打開という決定的な武器がありました。ですから、そこを徹底的に活かすこと、向き合わせることは意識しました」

――代表を狙える、とも。

 「ああいうタイプの選手はなかなかいないと思います。札幌の試合をここ最近見ていますけど、決定機をしっかり決めて、数字を残せば(日本代表選出も)あるんじゃないかなと。前を向けるところでもっと前を向く。1プレーで3人目に関わっていく、とか、最後の1歩をもっといやらしいところに入ってくることをすればもっと点が取れるのかなと感じます。それは小柏には言いました。もともと得点能力とスピードはありましたけど、総合的な力はここで付けたかなと思います」

――早稲田大学の外池監督は「佐藤凌我と小柏剛がすごかった」と言っていました。

 「小柏は背後を狙う武器はもともとありましたけど、その量は増えましたね。課題は決定力なのでそこは高めていかなければいけないですが。一方で、佐藤凌我は気が強かったんです。昔から負けず嫌い。それに加えて豊富な運動量で走り回れる。でも、プレーが雑でした。それは、性格からきているものかもしれません。

 ただ、責任感が増すことで1つひとつのプレーが繋がるようになってきましたね。同じポジションに狩土名禅(ギラヴァンツ北九州)や太田龍之介(2年・岡山U-18出身)がいて、先輩には佐藤亮や木戸皓貴がいた。彼らを見て育った部分もあったのかなと」

加入1年目からコンサドーレ札幌で出場機会を得ている小柏剛

J1強豪クラブへ進んだ守備陣の成長点

――後ろを見ると、GKと3バックは早川友基、常本圭吾(ともに鹿島アントラーズ)、 蓮川壮大(FC東京)、佐藤瑶大(ガンバ大阪)ら全員がJ1に進んだ選手ということもありました。これはなかなかないことかなと。佐藤瑶大選手はMVPを取りました。……

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明治大学育成

Profile

竹中 玲央奈

“現場主義”を貫く1989年生まれのロンドン世代。大学在学時に風間八宏率いる筑波大学に魅せられ取材活動を開始。2012年から2016年までサッカー専門誌『エル・ゴラッソ 』で湘南と川崎Fを担当し、以後は大学サッカーを中心に中学、高校、女子と幅広い現場に足を運ぶ。㈱Link Sports スポーツデジタルマーケティング部部長。複数の自社メディアや外部スポーツコンテンツ・広告の制作にも携わる。愛するクラブはヴェルダー・ブレーメン。

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