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【FUJI XEROX SUPER CUP 2021レビュー】「前哨戦」で見えた川崎フロンターレ、ガンバ大阪の課題と展望

2021.02.25

いよいよ2月26日に開幕が迫った2021シーズンのJリーグ。その前哨戦として開催された「FUJI XEROX SUPER CUP 2021」(ゼロックススーパーカップ)を、好評配信中のフットボリスタビデオ『Jリーグ 2021シーズン展望 ポジショナルプレーを掲げる各クラブを巡って』で講師を務める山口遼が振り返る。

 コロナ禍の影響による特殊なレギュレーションの問題もあり、短期間に複数回対戦することになった川崎フロンターレガンバ大阪。特に今年の元日に行われた天皇杯決勝では、フロンターレが昨シーズンの強さを象徴するようなパフォーマンスを見せた。対するガンバも守備面でのハードワークの意識やJ1上位らしい質の高さ垣間見せ、昨年のJリーグ首位を争った両チームの対決らしい好ゲームを見せていた。

 今回開催されたゼロックススーパーカップは、新たなシーズンの前哨戦的な役割を果たしている大会だ。プレシーズンの真っ只中なので互いにコンディションは完璧ではないにせよ、レベルの高いチーム同士の対戦は新シーズンの展開に対して示唆を与えてくれる。そこで今回は、先日私が執筆した天皇杯のレビューをある程度前提に持ちつつ、昨シーズンから新シーズンへどのような展望が描けるのかについて簡単に論じてみたい。

試合展開

 シンプルにゲームを分析する時には、両チームの攻撃はオープン志向なのかクローズド志向なのか、守備の位置は高いのか低いのか(あるいはほどほどなのか)を確認しておくと、簡単ではあるがゲームの展開を予測しやすい。フロンターレは明確にクローズドな攻撃と高い位置からの守備という明確なスタイルを持っている。一方でガンバは攻撃についてはややオープン志向だが、守備については複数の戦い方を試合や展開の中で使い分けるチームである。昨シーズンの対戦でも、ガンバのゲームプランの選択が基本的なゲームの展開を決定付けていた。

 リーグ後半の対戦ではガンバが守備位置を高く設定したので、プレッシングvsプレス回避という構図が試合の中で多く見られた。対照的に、天皇杯決勝ではガンバが低い位置にブロックをセットしたので、フロンターレの崩しと引き込んでカウンターを狙うガンバという展開となった。

 今回の対戦では、序盤はガンバが高い位置からインテンシティの高い守備を行ったため、前半の前半はビルドアップvsプレッシングの構図がよく見られた。フロンターレも、ガンバのプレスに出口を見つけて前進できた場合にはそのままダイレクトにゴールを目指す傾向にあった(ガンバが前がかりなので後ろにはスペースがある)ため、ゲーム全体としてインテンシティが強調されるようなオープンな試合展開となった。

 だが、前半も20分くらいを過ぎると徐々にガンバのプレッシングがペースダウン。低い位置で守備を行うようになったため、前回対戦同様にフロンターレが押し込む時間が長くなった。天皇杯でもそうだったが、時間とスペースがある状態での彼らはまさに水を得た魚。やはり小刻みにボールを動かしながらサイドからのルートを中心として崩しを行うフロンターレの攻撃に対して、ガンバはやや後手に回ることとなってしまっていた。この流れの中でフロンターレはガンバに対して2点をリードすることになり、正直見ていた人の多くは「ああ、今回もフロンターレが勝つのか」と思っていたかもしれない。

 ところが、後半の後半になるとフロンターレの自陣での守備の圧が明確に低下し始め、ガンバがボールを握り攻撃する時間が多くなる。フロンターレはボールホルダーに対するファーストDFを決められなくなってしまい、ガンバはボールホルダーが時間とスペースを得ることに。ガンバに所属する選手のクオリティを考えれば、ファーストDFの決まらないブロック守備でゴールを守り切ることは難しく、立て続けに2得点してガンバが同点に追いつくことになった。

 非常に娯楽性の高い展開となりややオープンな点の取り合いという様相を呈したゲーム終盤、もう本当にラストプレーかというところでDFラインの背後に抜け出した小林悠が決勝点を決め、最終的にはフロンターレが今季初タイトルを手にすることになった。

 ここまで、劇的な幕切れとなったこの試合の展開をざっと確認した。昨シーズンの最終戦としての天皇杯と新シーズンの前哨戦としての今回の試合の両方を見た時に、気がついたいくつかの小さなトピックを紹介することで、新シーズンに向けての展望としたいと思う。

決勝点を挙げた小林悠

シミッチの適応度

 私が出演しているフットボリスタビデオのフロンターレの回でも述べたのだが、私はシミッチがフロンターレの独特なスタイルに適応するまではアンカーでの起用に慎重になるのではないかと予想していた。シミッチは昨年までバルセロナに所属していた同胞アルトゥールを彷彿とさせるようなテクニカルかつスローペースな選手であり間違いなくグッドプレーヤーだが、一方でボールプレーにこだわるフロンターレのスタイルにおけるアンカーは非常に重要なポジションだからである。田中碧をアンカーで起用し、家長がウイング(WG)の位置からインサイドワークすることで、相対的に低い位置でビルドアップの役割を担うことになる右のインサイドハーフ(IH)としてシミッチを起用する形である。

 ところが、鬼木達監督はシミッチを最初からアンカーで起用してきた。これは非常に興味深く、思った以上にフィットしていた部分もあった反面、やはりまだ適応し切れていない部分も見られた。……

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ガンバ大阪川崎フロンターレ

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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