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「コンストラクター」と「インベーダー」――イタリア的なポジションの新解釈

2021.02.21

『モダンサッカーの教科書Ⅲ ポジション進化論』第1章特別公開(後編)

モダンサッカーの教科書Ⅲ ポジション進化論 の発売を記念して、第1章の「【総論】ポジションからタスクへ」を特別公開。お馴染みのボローニャコーチのレナート・バルディと片野道郎のコンビに加えて、ユベントスのピルロ監督の腹心であるアントニオ・ガリアルディがゲスト参加。

後編では、FIGCのイタリア代表育成年代コーディネーターであるマウリツィオ・ビシディが提唱するポジションの新解釈を、立場の異なる3人で掘り下げていく。

前編はこちら

マッチアナリシスの進化が「システムとパターン」を無効化する

片野「2人の話を聞いていると、アナリストの視点とコーチの視点が異なっていることがわかって、それも興味深いです。マッチアナリシスが普及しピッチ上の現象がより微細に把握され分析されることになった結果として、監督の側でも戦術をどう構築するか、選手のキャラクターをどう捉えてどう生かすかが進化してきた。サッカーを理解する枠組みが変わったことで、それをピッチ上にフィードバックするメソッドも変わったということですよね。

ガリアルディ「ええその通りです。戦術の進化とともに、アナリストの仕事もより複雑で難しいものになってきました。戦術がシステムとパターンで成り立っていた時には、それを読み解けばチームがどんなメカニズムで機能しているかはすぐにわかりました」

片野「逆に言うと、マッチアナリシスがシステム優先主義、パターン戦術主義の監督を時代遅れにしたという側面もあるということですね。

ガリアルディ「実際にそう言われていますね。パターンを読み解いてしまえば、それに対する対策を用意することができるわけですから。しかし配置やプレー選択の流動性が高いプレー原則主義のサッカーは、現象としては同じことが繰り返される頻度が低いので、読み解くことが難しい。その背後にどんなプレー原則があるのかを類推しなければなりませんから。その流動性の中にどのようなメカニズムが隠されているのかを読み解くのは楽しいことですけどね」

片野「マッチアナリシスがどのようにピッチ上の戦術に影響を与えてきたかというプロセスも興味深いところです。少し聞かせてもらえますか。

ガリアルディ「ビデオ分析によるマッチアナリシスが広まり始めたのは、90年代後半から00年代初頭のことです。当時はシステムとパターンの全盛期でしたから、分析によってどういう状況では誰がどのように動くかというメカニズムをほぼ完全に特定することができました。アナリストはそれを監督に伝え、監督は対策を考えてチームにそれを行わせる、という流れです。マッチアナリシスが広まり定着するに連れて、システムとパターンを中心に据えるタイプの監督は困難に直面していくことになりました。逆に、学習意欲が高くオープンで柔軟な考え方を持った監督たちは、マッチアナリシスを積極的に活用することで、自らの戦術を更新し変革していきました」

片野「さっきアンチェロッティの話をしましたが、それこそグアルディオラにしてもクロップにしても、バルセロナやドルトムント時代のサッカーと今のサッカーは、基本となる哲学こそ変わっていないものの、プレー原則やピッチ上の現象レベルでは大きく違いますよね」

ガリアルディ「そういうことです。実際、対戦相手の分析・研究というレベルのマッチアナリシスではなく、ピッチ上で起こっていることを統計的に分析するデータアナリティクスにまで話を広げると、また新たな世界が広がってきますからね。監督やコーチにとって新たな研究の対象になり得る材料はごろごろしていますよ」

片野「具体的な例を教えてください」

ガリアルディ「例えばこのところ、カウンタープレス/ゲーゲンプレッシングについて分析研究をしているのですが、興味深いことがたくさんあります。1回あたりどのくらい続くのか、何人の選手が参加しているのか、1試合あたり何回行われているのか、ピッチのどのゾーンで行われているのか――。優秀な監督たちはいちいちカウントしなくとも、試合のビデオを見るだけで大まかなところを把握する『目』を持っています。彼らは言うでしょう。1回あたり5~6秒くらい、参加するのは3~4人、1試合あたり15回くらいかな――。ところが実際にデータを取ってみると、それとは違う数字が浮かび上がってくるんです。我われはセリエAとヨーロッパの主要リーグ、両方のデータを取ったのですが、1回あたり5秒以下、参加するのは2.5人、ヨーロッパのトップクラブは1試合あたり30回前後、ゾーンはハーフスペースの外寄りからタッチラインにかけてで、中央のゾーンで行われることは非常に少なくペナルティエリア内は実質ゼロ――」

バルディ「私もアントニオからその話を聞いた時には驚きました。このデータが重要なのは、このデータを持っているか、それとも監督が『目』で読み取った情報を元にするかで、トレーニングの内容も変わってくるからです。トレーニングメニューを考案する時には、試合のシチュエーションを可能な限り再現しようと考えます。人数や頻度、ゾーンが違えば、メニューの内容も大きく変わります。そもそも誰をトレーニングすべきかまで変わるわけですからね。選手に話をする時にも、単にもっと積極的にプレスに行かないとダメだよ、と言うか、1試合に3回しか行ってないから5回に増やそう、と言うかで全然説得力が違います。データをチームに示すことで、競争心を刺激することにも繋がる。今やゲーゲンプレッシングは、決定機を作り出す最も有効な手段の1つになっていますから、この分析は本当に重要です」

「コンストラクター」と「インベーダー」の分類

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モダンサッカーの教科書Ⅲ

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。