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【戦術対談】五百蔵容×山口遼。日本サッカーには「マクロな戦術行動」がない?

2020.12.18

『砕かれたハリルホジッチ・プラン』五百蔵容×『最先端トレーニングの教科書』山口遼対談(後編)

コロナ禍で変則的な強化スケジュールになった2020年シーズンの日本代表。その総決算となったのが11月18日のメキシコ戦だった。2018年ロシアW杯から2年、果たして日本代表は進歩しているのか、そして「ベスト16の壁」を破るための課題は何なのか?――『砕かれたハリルホジッチ・プラン』の著者である五百蔵容氏と、東大サッカー部監督で『最先端トレーニングの教科書』の著者である山口遼氏が語り合った。

後編では、ピッチ上の「対応力」問題にも直結している、日本サッカーの「マクロな戦術行動」の弱さについて考えてみたい。

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ピッチ上のみの「対応力」の限界

――マクロな戦術的な対応と、対策的な対応とは何でしょうか?

五百蔵「今まで議論してきた相手の戦術に対するピッチ上の対応能力とは別に、マクロな部分の対応、例えば相手が4バックに変えてきたらこうする、と決まってくることがあるじゃないですか。まずは『4バックにしたらSBとCBの間のスペースが空くことに対してこのチームはどうするのか』を見ておけばいいとか、構造上で見るポイントが決まってくる。

 ロシアW杯の壮行試合で、どの相手かは失念してしまったのですが、日本が途中で4バックから3バックに変えたんですけど、『SBがウイングバックに変わったぞ』『相手の立ち位置が変わってくるからこういうふうに変えよう』と、かなりオートマチックに2、3分しないうちに相手の対応が変わっていたんです。

 一方、日本の場合はアジアカップ決勝がわかりやすいですけれど、カタールが3バックというのはあり得たのに南野や大迫が始まってから10分ぐらい『どうしようか』と試行錯誤しているうちに、点を取られてしまった。フォーメーションの噛み合わせで生じる問題はマクロな問題なので、少なくとも初手の対応は始まる前から準備できるはずです。事前の落とし込みにしろ選手の判断にしろ、そのマクロな部分が弱いままなのかなと。その理由というのが、戦術行動をマクロなものとミクロなものに分離していないからなんじゃないかなと」

山口「そこは監督によって考え方の違いがありますね。相手にアンカーがいるのにこちらが[4-4-2]で何も考えずに前からプレスをかけたらアンカーを使われるよね、というのは当然と言えば当然。その前提の上でこちらがどうプレスをかけるか、そして相手が変えてきたらこう対応する、という構造上の共通理解がまずあって、その中で判断に迷う細かい部分を監督と確認して全体ですり合わせてというのであれば全然わかるんですけど、割と相手によらないマクロな部分、戦術的には基本問題のようなところでつまずいている感はありますね」……

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戦術日本代表

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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