REGULAR

渡邉新太の離脱をどう乗り越えるか。水戸・加藤千尋が取り戻すストライカーの本能

2026.10.15

水戸ホーリーホック昇竜伝#15

J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へたどり着いた今も、さらに高みを見据えている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。

第15回は、渡邉新太の負傷離脱を受け、前線での役割を託された加藤千尋に注目する。プロ入り後、サイドやボランチなど複数ポジションで力を発揮してきた万能アタッカーは、ルヴァンカップで2得点を挙げ、清水戦でも鮮やかなループシュートを披露した。学生時代に磨いたストライカーとしての本能を呼び覚まし、苦境に立つチームの新たな希望となれるか。

エース離脱の危機。水戸が問われる「誰が出ても戦える」組織力

 J1第9節清水戦、48分、左サイドでボールを受けた谷口海斗はDF裏にスルーパスを送る。走り込んだ加藤千尋がそのままゴール前に運ぶと、「GKが前に出ていた」のを見て、ループシュートを選択。左足から放たれた、華麗な放物線はGKの頭上を抜けて、ゴールに吸い込まれていった。その後、清水に逆転を許して、敗戦を喫したものの、観る者に強烈なインパクトを残したゴールは水戸にとって、今後に向けた希望を感じさせるものだった。

 第8節以降、J1リーグは3週間の中断期間に入った。その間、水戸はリーグ再開から再び勝ち点を積み重ねていくための準備を行ってきた。しかし9月26日、チームに激震が走った。トレーニングの最中、これまで5得点を挙げてチーム最多得点を記録しているエースであり、キャプテンを務める渡邉新太が接触プレーで倒れ込んでしまった。足を引きずりながらクラブハウスに戻っていったが、翌日以降、練習に姿を見せることはなかった。そして、第9節清水戦翌日、「左膝内側側副靭帯損傷」とクラブから公式にリリースが発表された。プレー面でも、メンタル面でも、チームを力強く引っ張ってきたエースの離脱はチームに暗い影を落とした。

 ただ、下を向いてはいられなかった。

 「そういう(主力選手がケガで離脱する)状況はあり得るので、一人ひとりが自立して、強い意志を持って戦える強い集団にしていかないといけない。一人ひとりがリーダーシップを持って、『水戸のために』と戦えるようにしておかなければいけない」と樹森大介監督が口にしていたように、個人に頼るのではなく、組織として戦うためのチーム作りを行ってきた。開幕直前には飯田貴敬、さらには第6節終了後に大森渚生というそれまでの主力選手が移籍したものの、チーム力を落とさずに戦えていることはその証拠と言える。だからこそ、渡邉が負傷した際もカバーするための準備を行っていた。

複数ポジションで磨いた万能性。加藤千尋が担う新たな役割

 渡邉が抜けた2トップの一角として白羽の矢が立ったのは加藤千尋だった。25年夏に水戸に加入して、その後、サイドMFとしてレギュラーを獲得してチームに勢いをもたらして、J1昇格に大きく貢献した。足下の技術が高く、両足を効果的に使ってプレーできることを強みとしているアタッカー。運動量も豊富で、フィジカルも強い。そうした万能的な能力を生かし、百年構想リーグからは攻撃的MFだけでなく、ボランチやFWとしても起用され、持ち味のユーティリティ性を発揮してきた。

 「いろんなことができるのは自分の強みだと思っているので、そこはネガティブには考えていないです。どこで出ても自分の持ち味を発揮することや、どの時間帯に出ても役割を全うするというところは常に意識している。起用されるなら、どこのポジションでもいいと思っています」

 加藤自身もその役割を前向きに受け止め、常にどのポジションで起用されてもいいように準備を行ってきた。

……

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Profile

佐藤 拓也

1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。

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