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「272日ぶり」等々力弾の裏にある試行錯誤。川崎F新副将・伊藤達哉がたどりついたドリブラーの境地

2026.08.31

フロンターレ最前線#31

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第31回では、「272日ぶり」に等々力で背番号17に訪れた待望の瞬間。副キャプテンに就任した伊藤達哉が今季初ゴールの裏で重ねてきた試行錯誤と、その先でたどりついたドリブラーとしての境地に迫る。

 Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(等々力陸上競技場)で開催された、2026/27明治安田J1リーグの第4節のジェフユナイテッド千葉戦。スコアボードに刻まれた「4-2」という数字は、川崎フロンターレにとって単なる1勝以上の重みを持っていた。開幕からリーグ3試合連続の引き分け。3戦とも追いつく展開で勝ち切れなかった流れだったが、ようやく手にした今季初勝利だったからである。

 この試合で今季初ゴールを記録したのが伊藤達哉だ。

 1-1で迎えた37分。鋭いカウンターから抜け出したマルシーニョが中央へラストパスを送る。並走していた伊藤がボールを受けると、対面したDFとの間合いを見極めながら、迷いなく右足を振り抜いた。コンパクトでありながら芯を捉えた強烈なシュートが、鮮やかにゴールネットへ突き刺さる。

 咆哮するのでもなく、感情を爆発させるのでもなく、ホッとしたように今季初得点を噛み締めていたようだった。

 「久しぶりに等々力で点を決められてうれしかったです」

 待ち望んでいた瞬間を、本人はそう振り返っている。そして彼の「等々力で」という言葉の響きから記憶を手繰り寄せる。

 2025年はリーグ13得点を記録し、Jリーグベストイレブンにも選出された伊藤だが、百年構想リーグではゴールがほとんど生まれなかった。相手に警戒され、ボールを持てば、瞬時に2人がかりの網が張られる。複数人で構えられている守備網を攻略していくのは簡単ではない。決定力不足というよりも、シュートそのものが少なかった。結果、J1百年構想リーグで伊藤が決めた唯一の得点は、プレーオフラウンドのアウェイ・サンフレッチェ広島戦でのもの。そのため、今年はホーム等々力ではずっとゴールネットを揺らせていなかった。リーグ記録を紐解けば、等々力での得点は2025年11月30日のJ1第37節・広島戦以来になる。実日数にして「272日ぶり」だった。

半年前に断っていた副キャプテン就任の理由

 今シーズンに向けて、伊藤にはチーム内で変化があった。

 それが副キャプテン就任。実は百年構想リーグの際にも、キャプテンの脇坂泰斗から直々に打診を受けたことがあったが、その際は辞退している。

 「僕は副キャプテンっていう立場じゃなくても意見するし、自分がチームにとって大事だと思ったことを言うから、他の人がやってやったほうがいいと思いますって。その時は思ってることもあって言いました」

 肩書きなどなくても、いち選手としてチームに言うべきことは言う。ピッチ上で結果を出すことこそが最大の貢献である考えも変わらない。欧州の厳しい日常に慣れていた彼らしいスタンスだった。

 しかしこの新シーズンを迎えるにあたって、再び打診された。伊藤の胸に芽生えていたのは、前回とはまったく異なる感情だったという。その胸の内の変化をこう明かす。

 「あらためて、もう一回話をいただいた時、自分の中で心境の変化がありました。素直に『やりたい』と思えた。そして何より、チームの責任を背負いたいと思った。チームの成績イコール、チームが勝てなかったら自分のせいとなりたい。自分をすごく何かを変えることはないです。けど、そういう背負える責任を知りたいと思いました」

 勝てばチームの功績、負ければ己の力不足。彼はその重圧を真正面から引き受ける覚悟を決めたのである。何よりその責任を背負うことで、もっと自分を変えていきたい。1人のドリブラーは、川崎Fというクラブの責任を大きく背負う階段を登り始めたと言えた。

「欧州でやってた時も…」秋春制移行後初戦の「ずれ」

 今季はJリーグという枠組にも、大きな変化が起きている。

……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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