「脱ミラノ化」を完遂。北米型フランチャイズに変貌したミランの新体制を読む
CALCIOおもてうら#71
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、ミランの経営体制の再構築を掘り下げる。断行された大規模な組織再編は、変貌を続ける欧州サッカークラブの現在地を象徴している。TDやSDを置かず、CEOの下に機能を分散させる北米型の経営モデル。その改革は単なる組織変更ではなく、パオロ・マルディーニが象徴してきた「ミラニタ」を手放し、歴史あるカルチョの名門をグローバルブランドへと作り替える“脱ミラノ化”の完成を意味していた。
アレグリ解任より大きかった「組織図」の革命
昨夏招聘したマッシミリアーノ・アレグリ監督の下で、シーズン終盤までCL圏内を確保しながら、ラスト8試合で2勝しかできずに2位から5位へ転落、8位で終わった前年に続く2年連続のCL出場権喪失という大きなダメージを受けてシーズンを終えたミラン。この事態を受けて、2022年にクラブを買収した米投資ファンド「レッドバード・キャピタル」を率いるジェリー・カルディナーレが踏み切った経営体制の再構築は、単なるトップ交代や新監督招聘の枠に留まらない、より抜本的かつ本質的なものだった。
シーズン閉幕直後の5月25日、クラブの実質的な経営トップだったジョルジョ・フルラーニCEOを筆頭に、テクニカルダイレクター(TD)のジョフリー・モンカーダ、1年前にスポーツダイレクター(SD)に就任したイグリ・ターレ、そして監督のアレグリと、クラブ運営に関わる要職につく幹部を丸ごと解任。その後、ほぼ1カ月に渡った空白期間を経て、6月16日にようやくルベン・アモリムの監督就任が発表される。そしてその1週間後に明らかになった経営陣の新体制は、これまでイタリアのクラブではほとんど見られなかった、アメリカ的な機能分散型の組織形態だったのだ。
スポーツ部門を統括するTD、移籍交渉を担うSDというオーソドックスな強化部門の役職を置かず、それらすべての意思決定権をCEOに集約した上で、トップチーム監督、移籍交渉、データ、スカウティング、アカデミーという各分野の責任者をその下に置く、いわゆる「文鎮型」の構成だ。
マッシモ・カルベッリ(CEO)
ルベン・アモリム(トップチーム監督)
ヘンドリク・アルムスタッド(プレーヤートレーディング・ダイレクター)
ボビー・ガーディナー(フットボールインテリジェンス・ダイレクター)
ドナート・ロモンテ(ヘッド・オブ・スカウティング)
ヨバン・キロフスキ(ミラン・フトゥーロ=U23チーム統括)
ビンチェンツォ・ベルジネ(アカデミー統括)
CEOに就任したカルベッリは、1974年生まれ(51歳)の元プロテニスプレーヤー。選手としては凡庸(ATPランキング最高255位)だったが、引退後ナイキ、ウィルソン、アメアスポーツというスポーツ用品メーカーの要職を経て、2020年から25年までATPプロツアーでCEOを務めるなど、スポーツエグゼクティブとしてキャリアを築いたイタリア人だ。その職を辞した昨年レッドバード入りして、すぐにカルディナーレに重用されるようになった。今回の体制再構築においても、カルディナーレの片腕として実質的なリーダーシップを担ったことは容易に想像できる。
ラングニックが拒んだ「CEO支配」という発想
そのカルベッリとカルディナーレが進めた新体制の人事は、しかし順調には進まなかった。当初最も有力だったのは、「あの」ラルフ・ラングニック(現オーストリア代表監督)をTDとして招聘するという、エリオット時代のCEOイバン・ガジディスが2021年に進めようとした構想の再現だった。しかし、ラングニックがスポーツ部門に関わる全権を受諾の条件としたのに対し、レッドバード側はそれを受け容れることができずに交渉が停滞、北中米W杯開幕前というタイムリミットを迎えて破談に終わった。
ラングニックとの交渉の経緯は、最終的に固まった組織形態と突き合わせて考えてみると非常に興味深い。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
