フランスをチンチンにしたスペインに見る「ゆらゆら走り」の重要性。サッカーが上手い、とは?
【特集】北中米W杯深掘り分析スペシャルレビュー #15
4年に1度のW杯は、後世に語り継がれる名勝負の宝庫だ。しかし高度化した現代サッカーの裏側には、徹底した分析と綿密なシミュレーションに基づく極限の戦術的駆け引きが存在する。footballista編集部が選んだ識者たちが、注目国同士による「本気の闘い」を深掘りレビュー。あの90分で何が起きていたのか。勝敗を分けた戦術の妙に迫る。
第15回は、準決勝のフランス対スペイン(0-2)。今大会6試合16得点2失点の“レ・ブルー”を無力化した、“ラ・ロハ”の縦へ横への「ゆらゆら走り」に注目した。
「ボールをもらう→ゆらゆら走る→パスを出す」の繰り返し
スペインがフランスを「チンチン」にした、で異論はないだろう。が、チンチンぶりがなかなかスタッツに出て来ない。「チンチンに回した」とは言えない。支配率はフランス49%対スペイン51%だから。シュート数は10本(枠内3)対9本(枠内1)で、アタッキングサードでの攻撃時間率は34%対22%で、ローブロックでの守備時間率は18%対27%(以上データは『Driblab』)とフランス優勢に見えさえする。ゴール期待値の0.49対0.89(PKを除く)、勝ち点期待値の0.47対2.31だけが、内容に正直にチンチンである。
何が起こっていたのか?
ポゼッションの量ではなく質が高かった。ムバッペ、デンベレ、バルコラ、オリーセに決定的な場面を作らせなかったのは良い形でボールを持たせなかったからで、それは結局、ボールが無ければ攻められない、ということだ、と考えるとポゼッションサッカーの勝利と言える。だが、ではポゼッションの質の高さとは何なのか? もう少し大局から見れば、スペインの方がサッカーが上手かった、とも言える。だが、ではサッカーが上手い、とはどういうことなのか?
グラウンド上で起こっていることを言語化するのがジャーナリストの仕事なのにチンチンがうまく描写できない。だが、現象としてしばしば見られ、ポゼッションの質の向上、攻撃精度のアップ、スペース的な支配、フランスの無力感の増大に大きく貢献したプレーはわかる。
それはスペインの縦走りと横走りだ。
パス回しは考えてみれば当たり前のことだが、普通は足を止めては行われない。ボールをもらう→ゆらゆら走る→パスを出すの連続。この連続がパス回しとかポゼッション状態と言われる。ボール回しの基本として三角形にポジショニングすることの重要性が強調されるし、練習法として鳥かごが定着しているので、足を止めた人たちがワンタッチやツータッチでクルクル回しているさまを想像してしまうが、実戦では「ボールをもらう→ゆらゆら走る→パスを出す」の繰り返しのことの方が多い。
今回はフランス対スペインを題材にこの「ゆらゆら走る」という部分の重要性にスポットを当てたい。
※「ゆらゆら走り」をスペイン語ではConducciónと呼ぶ。ボールを運ぶことなので日本語では「ドリブル」とされることも多いが、スペインでは相手を抜き去る行為であるドリブル(Regate)とは明確に区別されている。
それはポゼッションの質を上げ、数的有利とセットになった集団技
子供の指導の現場では早い段階で「ボールをすぐに離すな」と教える。パス回しとは、直ちに仲間にボールを渡すこと、と誤解している子はスペインにも多い。違う。「ボールを動かしてマーカーを引き付けてから出せ」と言う。もし、マーカーが付いて来なかったら? 「マークが出て来るまで自分でボールを運んで行け」。もし、出て来なかったら? 「そのままシュートを撃っちゃえ」。こうして生まれたのが準々決勝スペイン対ベルギーでのメリーノの決勝ゴールである。クバルシがボールを持ち上がっても誰も行く手を阻もうとしなかった。だから撃った。そのシュートをGKがこぼした。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
