接戦なのに最後は強豪国が勝つ構造的理由。ノルウェー対イングランドが映した「リスクを管理するポジショナルプレー」
北中米W杯深掘り戦術分析スペシャルレビュー#14
4年に1度のW杯は、後世に語り継がれる名勝負の宝庫だ。しかし高度化した現代サッカーの裏側には、徹底した分析と綿密なシミュレーションに基づく極限の戦術的駆け引きが存在する。footballista編集部が選んだ識者たちが、注目国同士による「本気の闘い」を深掘りレビュー。あの90分で何が起きていたのか。勝敗を分けた戦術の妙に迫る。
第14回は、準々決勝のノルウェー対イングランド。互角の攻防が続いた一戦は、「リスクを管理するポジショナルプレー」が生み出す現代サッカーの縮図でもあった。なぜ試合は膠着し、なぜ最後は強豪国が勝ち切るのか。その構造的な理由を深掘りしてみた。
「リスクを管理するポジショナルプレー」同士の必然
イングランドとノルウェーの両チームの戦い方の選択と、両者の噛み合わせによって生まれた試合展開は、それぞれ非常に現代的かつ典型的と言えるものだった。逆に言えば、ここまでの複数の記事を通して提唱してきた、現代のFootballのフレームワークのレンズを通すことで、何が起こっていたのかがわかりやすくなるかもしれない。
まず、両チームの設計思想には共通点が多かった。どちらもポジショナルプレーを基本としたスタイルで、特にノルウェー代表の前進における配置と判断のモダンさは際立っていた。
一方で、ここからが非常に現代的な部分だが、両チームとも思想・哲学としてのポジショナルプレーと「心中」するつもりはなく、あくまでも戦術的な骨格、手法論としてポジショナルプレーを用いている。つまり、ポジショナルプレーは戦略における方法論のポートフォリオにおける一番手にこそ据えられてはいるが、一方で有機的なつながりやコンビネーションによる崩しはリスクの高さゆえそれほど試みられなかったし、前進やチャンスクリエイトの本命は両者ともにロングボールであったりした。ノルウェー代表が(本来CFタイプの)アレクサンデル・セルロートを右のウイングとして起用していたのは非常にわかりやすい。
このような「リスクをコントロールしたポジショナルプレー」を中心とした戦略を採るチーム同士が対戦すると、それも両者が拮抗した実力を持つ場合、必然的な帰結として今大会でもよく見られた大接戦になる可能性が非常に高い。
ブラジルvsモロッコのレビュー『万能同士の情報戦。ブラジル対モロッコを支配した「メタゲーム」の正体』で今大会の冒頭に提示したフレームワークの通り、現代のFootballでは試合の大部分の時間の主導権争いやxT(expected Threat/脅威期待値)などをめぐる争い(これを「大局的な争い」と呼ぶ)と、突発的に訪れる相転移を巡る争いの両方、特に後者の重要性が非常に上がってきている傾向があるのだった。
とはいえ、相転移を巡る争いが重要になったといっても、前者の大局的な争いをイーブンに、最低でも4対6くらいの範疇に収める努力はほとんどの場合必須である(実は戦略的にジャイアントキリングを起こすなら3対7とか2対8くらいまで攻め込ませる方が相転移を起こしやすかったりするが、あくまで実力が拮抗している場合の一般論として捉えてほしい)。
リスクをコントロールしてポジショナルプレーを行おうとする両チームならなおさらで、その結果、まず試合中の多くの時間で行われるのがミドルサードでの主導権争いとなる。その次に多くの時間が費やされるのが、その時間帯の主導権が確定した際のローブロックvsセットオフェンスの構図だ。
したがって、現代のFootballにおいては本気のローブロックを崩すことは非常に難しいとされているのに、さらにローブロックの崩しに入る前に、それ以上の時間と労力をミドルサードの主導権争いに費やすことになるということだ。にもかかわらず、両チームが大きなリスクを負って、致命的な相転移を引き起こしたくはないわけなので、ブロックの中に即興的に侵入していくプレーにも当然積極的ではない。ここまでくれば、膠着展開が必然であるというのも納得というものだろう。
勝敗を左右する「相転移」と「摂動」の設計
とはいえ、リスクをコントロールしているだけでは当然勝利はできないので、致命的なミスを避けることを前提に、どうにかして得点を奪う必要がある。この手段として一気に注目されてきたのが、相転移の活用(特にトランジション局面が多いが、セットオフェンスでも起こりうる)か、セットプレーである。
セットプレーは明らかに両チームの武器でもあり、この試合でも取り消しがなければノルウェーが1点を生み出すことに成功していた。ただし、セットプレーの分析は少し使う脳の筋肉が違うので、今回は取り消されたという事実をリスペクトして、特に相転移を活用する方法について考えてみよう。
ポジショナルプレーを基調にしながら相転移を活用して得点を奪う設計をする場合、2つのルートが考えられる。
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Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd
