「29.9%」が示すアイデンティティの喪失。オランダを32強敗退へ導いたクーマンの「恐れ」
【特集】北中米W杯注目国の敗因 #2
オランダ代表(ラウンド32敗退)
北中米W杯では数々の注目国が志半ばで大会を去った。勝敗を分けたのは、個の力か、戦術か、それともピッチ外の要因か。彼らの敗因は「世代交代」や「決定力不足」といったステレオタイプでは片づけられない。戦術の進化、過密日程、ルール変更、選手層、育成、チームマネジメント――その背景には、日本サッカーが学ぶべき課題も潜んでいる。本特集では各国の戦いを深掘りし、彼らがなぜ敗れたのかを検証する。
第2回は、ラウンド32で大会を去ることになったオランダ代表。グループステージで大会最多の10得点を挙げたオランダは、決勝トーナメント初戦では別のチームになっていた。モロッコ戦で採用した超守備的な[5-2-3]、大会史上ワーストとなる29.9%のボール支配率――。敗因はPK戦ではない。そこにあったのは戦術的な敗北ではなく、「恐れ」がアイデンティティを飲み込んだ物語である。
29.9%――史上最も「オランダらしくなかった」試合
電光石火のカウンターから、第2子を流産で失ったばかりのコーディ・ガクポが右足を振り抜きオランダが先制ゴールを奪い、ベンチの選手も駆け寄って祝福したシーンは美しかった。この1点を守り切ればクーマン采配も評価されたかもしれない。しかしPK戦でモロッコに屈したオランダはベスト32でW杯を後にした。
確かにオランダとモロッコは死闘を繰り広げた。だが、オランダサイドからすると、試合後に残ったものは屈辱の思い。攻撃サッカーのお株を完全にモロッコに奪われ、オランダはW杯における同国代表史上ワーストの29.9%のポゼッションしか記録できなかった。
GSで築いた“本番仕様”を、自ら壊したクーマン
オランダのグループステージの戦い方は理想的だった。初戦の日本戦では試合の締めくくりに失敗し2-2の引き分けに終わったが、続くスウェーデン戦(5-1)とチュニジア戦(3-1)とゴールラッシュが続いた。上位進出を狙うオランダにとってグループステージは調整を兼ねた場。それでもピークを迎える前に、オランダは得点10と、参加48カ国中最多ゴールを記録してF組を首位で突破したのだ。これを自信に、あとは調子を上げていくのみだ。
だが、ロナルド・クーマン監督はまったく別のことを考えていた。彼はグループステージの3試合で4失点を喫した守備に不安を感じ、チームを再度作り替えることを決断したのだ。こうしてモロッコ戦に向けて用意されたのが[5-2-3]という超守備的フォーメーションだった。オランダが積み上げてきたものはこうして消えた。
ここでW杯欧州予選、準備試合のオランダの中盤の特徴を振り返ってみよう。
●3人のMFのうち2枚はコントローラー。
●フレンキー・デ・ヨング、ライアン・フラーフェンベルフ、ティジャニ・ラインダースは能力こそ高いが、チャンス創出という点では物足りなかった。その弱点克服としてチャビ・シモンス、ジュスティン・クライファートのトップ下起用も試された。
●ボール保持時に右ウイングの選手が中に絞り、3人のMFと“ボックス”を作るのがコンセプト。右SBのドゥムフリースが攻め上がるスペースを開けること、ショートコンビネーションで攻め切ること、相手のカウンター対策として“ボックス”が採用された。
しかしW杯が始まると、クーマン監督は以下のように中盤の構成を変えた。
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。
