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フットボールに筋トレは必要なのか?プレミアリーグが再定義する”強さ”と“理想の身体”

2026.05.18

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#28

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第28回は、フットボールと「筋力トレーニング」の関係を再考する。プレミアリーグでは屈強なフィジカルを武器にした選手たちが躍動する一方で、ウェイトトレーニングを避けるトッププレーヤーも少なくない。筋肉は本当にパフォーマンスを向上させるのか。それとも“重さ”はスピードや創造性を奪うのか。他競技の知見を導入するブレントフォードの実践も参照しながら、現代フットボールにおける“強さ”の定義を問い直す。

 フットボールの母国イングランド。その最高峰の舞台であるプレミアリーグは、ハイテンポなトランジションと激しいコンタクトが90分続く、世界でも屈指の高強度リーグとして知られている。当然ながら多くの選手がジムで筋力トレーニングをしていると思われがちだが、その価値に異を唱える選手たちも増えている。今回はサッカーと“筋トレ”の関係について、再考してみたい。

「筋トレ否定派」たちの主張

 ウェストハムのカラム・ウィルソンはプレミアリーグで長年プレーしてきたCFであり、頼れる得点源として活躍してきた。今もプレミアリーグでプレーしている34歳は、厳しい残留争いに挑むウェストハムサポーターの1つの希望だろう。現在はテクニカルで運動量も豊富なバレンティン・カステジャーノスとの併用が続いているが、エリア内での決定力やフィジカルではウィルソンが上回る。シンプルなボールを彼に供給してエリア内で勝負させるパターンこそ、苦しい時にチームが頼るべき戦術だ。

 そんなウィルソンは決して身長が高い選手ではないが、プレミアリーグのDFとの肉弾戦にも怯まない。そんな武闘派FWが『The Footballer’s Football Podcast』に出演したエピソードは、多くのサポーターを驚かせた。

 「フットボーラーとして過剰な筋肉をつけたくはない。なので、ベンチプレスはあまりやらないようにしている。信じてくれるかはわからないが、私はジムでのウェイトトレーニングから距離を置くようにしている。その方が、自然な強さが出せるような気がしているんだ」

 そのポッドキャスト番組に一緒に出演したマイケル・アントニオ(現アル・スィーリーヤ)も、それに同意している。この36歳のアタッカーもウェストハムの前線で長く重戦車のようなプレーを披露し、プレミアリーグの守備陣を破壊するようなパワーとスピードで多くのゴールを決めてきた男だ。

 「すぐに体重が増えてしまうし、簡単に筋肉が大きくなってしまう。だからトレーニングをしても、体幹トレーニングや自重トレーニングくらいだ。余計に体を大きくしたくない。ジムでウェイトトレーニングをすると、体重が増えて動きが遅くなってしまう。年齢も重ねてきたし、スピードはできるだけ落としたくない」

「ウェイトを持ってピッチに出る選手はいない」

……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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