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スパーズ低迷の要因たる「3つの軸」の欠如。フロントよ、フランクよ、ロメロよ…伊沢拓司が2026年に望むこと

2026.01.10

the SPURs for the Spurt 〜N17から眺めるプレミアリーグ〜 #11

熾烈な上位争い、世界中から集まる有望株、終わることのないマネーゲーム……欧州サッカーの中心となったプレミアリーグが、なぜここまでの地位を手に入れたのか、そして今後どうなっていくのか。“クイズ王”としておなじみの伊沢拓司が、敏腕経営者ダニエル・レヴィが築き上げた(202594日に退任)トッテナム・ホットスパーを通して、その活況の要因と未来の展望を綴っていく好評連載。

第11回は、第21節を終えて7勝6分8敗の14位……「語ることのないシーズン」を送るトーマス・フランク新体制のスパーズを、今こそ希望を込めて語りたい。

 2025年のスパーズを、ELタイトルを抜きにして語るならば、それは「雑然」の一言に尽きるだろう。

 首脳陣の大幅な刷新と、勝ちから遠ざかる苦しみ。いくつかの希望と、それを上回る頻度の失望。ここ5〜6年、勝つときも負けるときも爽快だったスパーズは、小さく勝って小さく負けるチームになってしまった。

 「しまった」とは言うが、それが悪いことだと言い切るつもりもない。現代のフットボール、特にプレミアリーグを戦っていく中で、目に見えるリスクを放置することは明確な悪手だ。トーマス・フランクはそうした要因に順にメスを入れていっているものだと信じている。

 しかしながら、攻撃的なフットボールを信条とするチームの伝統、およびファンベースの感性によって早くもフランクは逆風にさらされており、あまりにも多い問題点ゆえ論点が錯綜していることも相まって、試合内容の退屈さばかりが殊更やり玉に挙げられている。明らかに退屈なのでしょうがない部分もあるが、もう少し重層的にものごとを見てもよいだろう。それほどまでに、課題はたくさんある。

 せめて2026年は、ひとつひとつの課題が良い方向に向かう一年であってほしい。今回は、来る一年への希望を込めて、ひとつひとつの問題を紐解き、スパーズが良きフットボールクラブたるための要件を探り出していきたい。外野から見たら「名門の凋落」として映るであろう2025年のスパーズについて、現時点で一度整理しておくべきだ。

 今のスパーズに欠けているものは、私の考えでは「軸」である。それも3つの大きな軸だ。定まるべきものが定まっていないからこそ、チームは今苦境にあるのである。ひとつひとつの軸を順を追って見ていこう。

1月7日のリーグ第21節は11試合未勝利だったボーンマスに後半アディショナルタイムの決勝点で敗北(●3-2)。2026年は1日のブレントフォード戦(△0-0)、4日のサンダーランド戦(△1-1)に続いて3試合未勝利、昨年11月からのプレミア12試合で2勝4分6敗と苦しんでいる

ひとつめの軸:フロントの意思決定における軸

 これまでのスパーズフロントといえば、名物会長ダニエル・レヴィのタフネゴシエーションとチーム愛……と相場が決まっていた。彼のチーム愛が、健全で安定的な経営につながった面もあれば、選手をなかなか見切れないがゆえのリビルド失敗へと陥った面もある。とはいえ、その手腕の唯一無二性からか日本のファンベースでは特に人気のある人物だった。財務体質のために出費を抑えた補強戦略と、高いチケット代ゆえに現地ファンからはかなり怒りを買っていたのだが……。

 そのレヴィが9月に解任された。真相はまだ不明な点も多いが、移籍市場が閉じた直後の、異例かつ突然の解任であった。これまでレヴィが積み上げたものへのリスペクトを感じられない解任劇は、クラブの否応なき変化を感じさせる出来事だったが……これでは終わらなかった。

 翌月、ファビオ・パラティチがSD(スポーツディレクター)に復帰。ユヴェントス時代に起こした不正の咎(とが)でフットボール活動を離れていたのだが、謹慎前の獲得選手が成功を収めたこともあり、ファンからは大いに歓迎される出戻りとなった。同時に、それまでTD(テクニカルディレクター)を務めていたヨハン・ランゲもSDへと昇格し、ピッチや選手を司る部門が二頭体制に。交渉が得意なパラティチと、分析が得意なランゲは、お互いがお互いを補完し合う関係性になるか……と思われたが、ここにきて急転直下、予想外のことが起こった。パラティチのフィオレンティーナ行きが報道され、ほぼ離脱は確定とも言える状況になったのだ。復帰から3カ月、わざわざ体制を整えたにもかかわらずのドタバタ劇だ。待望の人物は、ユダとして後ろ指を指されかねない状況に身を投じた。

昨年10月に公開されたランゲ(左)とパラティチ(右)による新しいSDモデルに関する詳細な議論

 良くも悪くもスパーズの象徴であったレヴィが退任し、判断軸を刷新することとなったスパーズ。レヴィは退任前からピッチ上での権限をSDに移乗してきたが、そのSDすら定まらないようでは、「軸が決まらない」以前の、「軸の決め方が決まらない」段階である。他のチームに比べて、一歩も二歩も遅れた状況であろう。

 そして、そのまま冬の市場が幕を開けてしまった。フットボール運営ディレクターとして元シティ・フットボール・グループのラフィ・モルセン氏を招聘中という話もあるが、一回分の市場を逃してしまう時点で遅きに失しているとも言えるだろう。交渉する側がバタついていては、タフな交渉など仕掛けようもないのだ。多くの批判が長年フロントに向けられているが、そもそもその間にフロントは大きく変革し、誰がどう判断しているのかもわからない。「批判している対象が、そもそもどう存在しているかわからない」という状況がより絶望的なのだ。

 これで、チームの状況が良ければまだなんとかなったのだろうが、今のスカッドは明確に整理が必要な状況だ。とても厳しい。

 頭数は多いがスタメンの定まらない左ウイング、ペドロ・ポロとジェド・スペンスが出ずっぱりなフルバック、絶対的な存在のいない中盤。欧州大会では登録枠に対して選手を持て余し、有望若手のマティス・テルを登録できなかった。成長を見越して若手を多く抱えている一方、ベテランの放出はうまく進まず、ケガ人も多いために「こうすればベスト」という形が見出せていない。それもこれも、クラブのフットボール哲学と、監督人事の矛盾(攻撃を標榜しつつ、守備的な監督であるモウリーニョやコンテを連れてきたあたりから狂い出した)が生み出した、ここ7〜8年の歪みゆえのものであろう。トロフィーは取れても、長年の負債はそう簡単には返せない。レヴィは長期的なフットボール哲学の確立に向けてSD部門の強化を行っていたのだが、その中身がこうまでバタついてしまうとプランもなにもあったものではないだろう。今こそ確立すべき「どういうフットボールを目指すか」という軸が、決める決めない以前の状態になっていることこそ、今クラブを包む暗雲の核心であろう。

 誰がこの状況を引き起こしているのか、そしてどのような決定過程をたどっているのか。外からではわからないことがまだまだ多いが、一刻も早くこの状態を解消するところから、すべては始まると思っている。

……

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Profile

伊沢 拓司

私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。

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