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ロティーナ→ホワイトとは何だったのか。東京Vが脈絡のない路線転換で過ごした空虚な数カ月

2025.11.01

泥まみれの栄光~東京ヴェルディ、絶望の淵からJ1に返り咲いた16年の軌跡~#10

2023年、東京ヴェルディが16年ぶりにJ1に返り咲いた。かつて栄華を誇った東京ヴェルディは、2000年代に入ると低迷。J2降格後の2009年に親会社の日本テレビが撤退すると経営危機に陥った。その後、クラブが右往左往する歴史は、地域密着を理念に掲げるJリーグの裏面史とも言える。東京ヴェルディはなぜこれほどまでに低迷したのか。そして、いかに復活を遂げたのか。その歴史を見つめてきたライター海江田哲朗が現場の内実を書き綴る。

第10回は、ミゲル・アンヘル・ロティーナ体制下で2年連続でJ1参入プレーオフを戦った東京ヴェルディが2019年、路線転換するために招聘したギャリー・ジョン・ホワイト監督によって混迷していく様子を描く。

ホワイト監督の初陣は「何も残らないゲームに」

 終了のホイッスルが鳴った瞬間、ひどい虚脱感に襲われた。

 2019シーズンの幕開けとなるFC町田ゼルビア戦、東京ヴェルディは0‐1で敗れる。63分、富樫敬真に得点を許し、最後までネットを揺らせなかった。

 開始から、東京Vは縦に大きく蹴りまくった。まるで終了間際の1点リードを守るかのごとく、とにかく自陣のゴールからボールを遠ざけようとした。この試みは、町田のプレッシングを回避する点では有効だったが、前線の動き出しとマッチすることがなく、大半が相手の待ち構えるところにボールがいく。選手がピッチに分散し、セカンドボールを思うように拾えない東京Vは必然的に押し込まれた。

 李栄直に訊いた。序盤のロングボールは町田とがっぷり四つに組まないことが目的だったはずだ。どこかで変化を加えていくことは考えになかったのか。

 「ありましたよ。どこかで区切るつもりだったし、区切らなければいけないと感じながらやっていました。実際、ボールをつなげる手応えは途中でありましたから。でも、誰も思い切ることができず、変えられなかった」

 端戸仁は言った。

 「前半の20分から25分あたりまでは町田戦のために用意したサッカーをやるという話だったのが、45分になって、60分が過ぎて、失点してからも一辺倒で、結局最後まで。自分のサッカー人生で初めてのことで、ちょっと驚いたというか……。もちろん、監督の決めた戦術は大事です。僕らはそれを大切にしてプレーするのが仕事ですけれど、こういうゲームでは誰かが勇気を出して進言してもよかったとも思います。今日は観ている人たちも面白くなかったでしょう。何も残らないゲームになってしまった」

端戸仁(Photo: Tetsuro Kaieda)

 2年連続でJ1参入プレーオフに出場したロティーナ体制の後を受け、ギャリー・ジョン・ホワイト監督が就任。ホワイトは初陣となったゲームを次のように振り返った。

 「今日の試合に向けて、ふだん選手たちがやっているサッカーと違うサッカーをやらなければならなかった。空中戦になることはわかっていて、そこは選手たちがうまくやってくれたと思います。選手たちは自分たちのキャラクターを見せ、必要となったときにできるということを証明してくれました。シーズンを通し、ずっとポゼッションできるわけではなく、今日のような戦い方もできないとダメだということを選手に伝えました。結果だけを求めて戦わなければならないときもある」

 リーグ戦の序盤における戦いは、勝ち方より負け方が重要だ。勝点を積み上げるのと同じくらい、ひょっとするとそれ以上に中身のある負け方が大事になる。

 すべてのチームには、負けしろが用意されている。負けしろは一律ではない。目標設定の高さによっても変わってくる。充実した戦力、資金力を備えるクラブは、他よりアドバンテージがある。地力の差で相手を上回り、結果を出していくことで負けしろを保全し、またシーズン中の補強によって大胆に手を加えることも可能だ。

 J2のほとんどのクラブはそうではない。限られた負けしろをどう使うか。ここが指揮官の腕の見せどころで、その先に大きく影響する。よって、現状の力を出し切り、チャレンジしたうえで敗れるのであれば、歓迎していいくらいだ。リーグ終盤になるとこうはいかない。勝点1のため、得失点1のために手段を選んでいる場合ではなくなる。このとき行為を正当化するのは結果だけだ。

 どんなチームも、負ける。負けしろのあるうちに、敗戦から学ぶ。多くを学んだチームだけが最終的に昇格戦線に生き残り、ラストスパートの伸びにつなげられる。やがて如実に表れるチーム力の差に比べれば、リーグ序盤の星取表など取るに足らぬことだ。

 この時期、J2の22チームは勝点を競っているように見え、そのじつは負け方を競っている。私はそういう見方をしていた。

ギャリー・ジョン・ホワイト監督(Photo: Tetsuro Kaieda)

ロティーナからの“振り幅が大きすぎる”不安が現実に

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Profile

海江田 哲朗

1972年、福岡県生まれ。大学卒業後、フリーライターとして活動し、東京ヴェルディを中心に日本サッカーを追っている。著書に、東京Vの育成組織を描いたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。2016年初春、東京V周辺のウェブマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を開設した。

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