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クラブW杯で浦和と激突。インテルはなぜ、キブを新監督に選んだのか?

2025.06.13

CALCIOおもてうら#45

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、今月から始まるクラブW杯で浦和レッズと激突するインテルの新体制について。シモーネ・インザーギ体制の4年間を終え、新サイクルの担い手としてクリスティアン・キブを選んだ背景を考察してみたい。

 4年に一度の開催、出場32チームという超拡大フォーマットで行われる新クラブW杯。ヨーロッパからは、過去4シーズンのCL優勝チーム(チェルシー、マンチェスター・シティ、レアル・マドリー)に加え、UEFAクラブランキング上位のバイエルン、パリSG、ドルトムント、インテル、ポルト、アトレティコ・マドリー、ベンフィカ、ユベントス、ザルツブルクの計12チームが出場する。

 イタリアから出場するのは、UEFAクラブランキング7位のインテルと14位のユベントス。ランキングが低いユベントスが出場権を得たのは、大会レギュレーションにより1国からの出場枠は最大2つと定められているため。具体的には、ランキング的にユベントスより上にいるリバプール(8位)やライプツィヒ(11位)、バルセロナ(12位)が外れて、13位ベンフィカ、14位ユベントス、18位ザルツブルグが入る形になった。

 OptaのAIによる優勝予想で、優勝確率1位から11位までをUEFA勢が独占している(浦和レッズは26位)事実を見てもわかるように、世界のクラブ勢力地図も代表と同様、ヨーロッパが覇権を握る格好になっている。各大陸のチャンピオンチームが出場する旧フォーマット下でのクラブW杯でも、ほぼ常にヨーロッパのクラブが優勝してきたことは周知の通り。今大会も、参加する欧州勢の多くは、本気でタイトルを狙いにきているように見える。

 インテルもその1つであることは間違いない。

CL決勝の大敗で、クラブW杯の位置づけが変化

 今シーズンは、セリエAでこそ勝ち点1差でナポリにスクデットを持って行かれたものの、CLではバイエルン、バルセロナという強豪を蹴散らして一昨シーズンに続いて決勝進出を果たした。その決勝でパリSGに手も足も出ず0-5の惨敗を喫し、最終的に無冠に終わったことで、シーズンへの評価は一気にネガティブな方向に傾いてしまった感がある。しかしそれは、そのつい1カ月前に「15年ぶりの『トリプレッタ』も不可能ではない」と舞い上がった反動であり、冷静かつ客観的に見れば、シーズンそのものは十分ポジティブな評価に値するものだったと思う。

 とはいうものの、CL決勝での惨敗が、このクラブW杯へのアプローチにかなり大きな影響を与えたことは確かだ。何よりも大きいのが、4シーズンに渡ってチームを率いてきたシモーネ・インザーギ監督の退任である。アル・ヒラルからのオファーについてはCL決勝前からすでに伝えられており、クラブが提示していた契約延長の受諾も保留していたことから、いずれにしても今シーズン限りでの退任を決めていた可能性はある。しかし、CL決勝での敗北に続いたこの退任劇が、過去4年間(コンテ時代も含めれば6年間)にわたって常にトップレベルの競争力を保ちイタリアの頂点を争ってきた1つのサイクルの終わり、という意味合いを少なからず帯びる格好になったことは否定できない。

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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