片野坂監督、激怒の理由。メンバー固定の大分で“途中出場組”に期待する役割とは?

トリニータ流離譚 第25回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第25回は、主力メンバーを固定する今季のスタイルで、片野坂監督が“途中出場組”に期待する役割について考えてみたい。天皇杯1回戦・レベニロッソNC戦後、指揮官はなぜ怒りを露にしたのか?
メンバー固定で熟成されてきた今季のスタイル
5月25日、大分トリニータは天皇杯1回戦・レベニロッソNC戦に2-0で勝利し、2回戦・北海道コンサドーレ札幌戦へと駒を進めた。
レベニロッソNCは愛媛県新居浜市を本拠地とする四国サッカーリーグ所属のチームだ。カテゴリーで言えば3つ下になる。その相手に対し、片野坂知宏監督はリーグ戦の主力メンバーをベースとした、いわゆる“ガチメン”で挑んだ。
1回戦は週末開催で、直近のリーグ戦であるJ2第16節のV・ファーレン長崎戦と次の同第18節・ヴァンフォーレ甲府戦との間、それぞれ中6日と中5日のブランクがあったことも理由の1つ。「連戦ではないのでターンオーバーの必要がない」という指揮官の言葉には、主力メンバーのコンディション維持や戦術浸透を意図したと同時に、相手チームへのリスペクトも込められていたのかもしれない。天皇杯ならではの“格下”とのマッチアップで「勝って当たり前」の状況だからこそ、足元をすくわれてジャイアントキリングされるケースが、この大会ではしばしば見られる。そんなことにならないよう、ベストメンバーを組んだものと思われた。
今季はプレシーズンから主力をほぼ固定して戦術を浸透させてきたおかげで、選手間の意思疎通や連係がスピーディーに進んだ。守備戦術に関しては明確な規律を設けた一方で、攻撃戦術に関しては大枠のみを決め、細部はエコロジカルに選手たちの特性を生かす方法を採用していたため、シーズン序盤は攻撃の形が作れず苦労することになったが、経験豊富なメンバーを中心に選手たちがそれぞれの特性を擦り合わせながら少しずつ攻め方を構築していくのを、コーチ陣は指示のさじ加減を調整しながら辛抱強く見守っていたようだ。
ゲームモデルは「いい守備からいい攻撃へ」。最初のうちは与えられた指示の中でカウンターでしかチャンスを作れなかったが、選手たち自身がそのことに危機感を覚え、もっとボールを持ちたいとコーチ陣に伝えたことで、次第に攻撃ベースの対相手戦術も増えてきた。1つ試合を終えるごとにそこで出た課題を修正する形で積み上げを進めていく中で、起用選手やフォーメーションもマイナーチェンジ。GWの連戦期間中だった第11節・ジュビロ磐田戦、第12節・サガン鳥栖戦、第13節・ロアッソ熊本戦で3連勝したあたりから、ようやくこれが今季の戦い方になるという輪郭が定まってきたようにも見えた。
第13節から中2日でアウェイに移動しての第14節・モンテディオ山形戦は、準備期間の短さがもろに影響して0-3で大敗したが、内容からはそれまでの戦い方からブレない芯のようなものも見え、長期的視点に立てばそれほど悲観すべきものでもなかったと言えるだろう。
レベニロッソNC戦後、“指揮官の怒り”の理由
ただ、勝った試合でも勝ちきれなかった試合でも同様に課題になってきたのが、選手交代後の試合運びだった。主力を固定して戦ってきたことのデメリットとして、バックアップメンバーの底上げがなかなか進まない。伊佐耕平や榊原彗悟、ペレイラ、デルランら、個性の際立つ戦力が組み上げてきた“今季のスタイル”に、途中出場の選手たちはどうやって自らをフィットさせればいいかがなかなかイメージできない様子だった。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg