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セリエAの止まらない“監督シャッフル”。その背景にある「マルモーレ」とは何か?

2025.06.02

CALCIOおもてうら#44

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、トップ10の「7/10」が新監督で臨んだ24-25シーズンを終えた今、再び監督の大シャッフルが起こりそうなセリエAの監督事情とその背景にある「マルモーレ」について考察してみたい。

 24-25シーズンがナポリの優勝で終わってから1週間、セリエA各クラブは早くも来シーズンに向けたチーム編成に取り組み始めている。

24-25開始前時点でトップ10の「7/10」が再スタート

 チーム編成のプロセスにおいて最初に取り組むべきは、もちろん監督選びだ。さる24-25シーズンは、多くのクラブが「サイクルの節目」を迎えていたこともあり、前年のトップ10のうち7チームが監督交代に踏み切った。

 留任したのは前年優勝したインテルのシモーネ・インザーギと、長期政権が9年目を迎えたアタランタのガスペリーニ、そして前年半ばに途中就任したローマのデ・ロッシのみ。残る7チーム(ミラン、ユベントス、ボローニャ、ラツィオ、フィオレンティーナ、ナポリ、トリノ)は、新監督を迎えて新たなサイクルのスタートを切った。

 それから1年を経た今、この10チームのうちなんと優勝したナポリ、2位インテルを除く8チームが、またもや監督交代に踏み切ろうとしている。しかもそのうちユベントス、ミラン、ローマは、シーズン中に監督の首をすげ替えた上で、またあらためて別の指揮官を迎えようとしている。

 もともとセリエAは監督交代が多いことで有名だったが、その多くは不振に陥って降格の危機に瀕した下位チームがシーズン途中に踏み切るケースだった。しかし近年は、極端な監督交代癖を持つザンパリーニ(パレルモ)、プレツィオージ(ジェノア)、チェッリーノ(カリアリ)といった名物会長が舞台を去ったこともあり、シーズン中の監督交代は減少傾向にある。

ガスペリーニがローマへ?24-25終了時点でのトップ10監督の現状

 今シーズンを見ても、その種のケースはレッチェ(ゴッティ→ジャンパオロ)、ジェノア(ジラルディーノ→ビエイラ)、モンツァ(ネスタ→ボッケッティ→ネスタ)、パルマ(ペッキア→キブ)の4チーム5件のみ。

 逆に、ビッグクラブの途中交代がローマ(デ・ロッシ→ユリッチ→ラニエーリ)、ミラン(フォンセカ→コンセイソン)、ユベントス(チアゴ・モッタ→トゥドル)と3チーム4件もあった。しかも、この3チームはシーズンが終わった今、あらためて別の監督を迎えようとしている。5月末日時点でのトップ10の状況は次のようなものだ。

○:ナポリ

 優勝決定直後にコンテが留任しない可能性をほのめかすも、デ・ラウレンティス会長と会談の結果、契約延長を伴う続投が決定。

△:インテル

 インザーギは続投を明言せず、国外からのオファーがあることを示唆。

×:アタランタ

 ガスペリーニがこのままでは現在のレベルが保てないと発言。退任を発表済みでローマ監督に就任する見込み。

△:ユベントス

 監督人事以前に強化責任者ジュントリが解任され元リバプール、トゥールーズのコモリをゼネラルディレクターに招聘。トゥドルはクラブW杯後に解任が濃厚。次期監督候補1番手はフルアムのマルコス・シルバが浮上。

×:ローマ

 ラニエーリは既定路線通りに続投を辞退し、ガスペリーニ招聘が濃厚。

△:ラツィオ

 終盤までCL出場権争いに絡みながら最終戦で欧州カップ戦圏外に転落したバローニと1年で訣別する見込み。

×:フィオレンティーナ

 クラブが続投を示唆した直後にパッラディーノが電撃辞任。理由は不透明。

○:ボローニャ

 イタリアーノが契約を延長して続投。

×:ミラン

 新SDにターレを招聘。コンセイソンは解任、新監督はアレグリに決定。

△:トリノ

 バノーリを1年で解任濃厚。後任は未定。

「マルモーレ」への耐性が一番低いのは首脳陣

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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