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ボローニャとのわずかな「ズレ」?チアゴ・モッタのユーベがアイデンティティ確立に苦しむ理由

2025.02.21

CALCIOおもてうら#37

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、高いボール支配率と安定した守備、しかし攻撃のボリュームに大きな課題――チアゴ・モッタのユーベは1つの壁に直面している。CLプレーオフのPSV戦でも露呈した不安定なチームビルディングの構造について考察してみたい。

CLプレーオフ、PSV戦の完敗で見えた現状

 2月19日のCLプレーオフ第2レグ、ユベントスはPSVと延長戦にもつれ込んだ末に2試合合計4-3で敗れ、前日のアタランタ(対ブルージュ)、ミラン(対フェイエノールト)に続いてベスト16に勝ち残れず敗退を喫した。これでイタリア勢は出場5チーム中4チームがすでにCLの舞台を去り、ベスト16に勝ち残ったのはインテルのみという寂しい結果となった。

 ユベントスはPSVと昨年9月のリーグフェーズ第1節でも対戦しており、その時は3-0で難なく完勝している。1週間前の第1レグも、内容的にはそれほど楽な試合ではなかったとはいえ2-1で勝利。この第2レグはアウェイながら引き分け以上で勝ち上がりが決まるとあって、戦前は楽観的な見方が強かった。

 しかし蓋を開けてみれば、立ち上がりからPSVのハイプレスに苦しめられ、自陣からクリーンな形でボールを持ち出すことすらままならない。それでも前半は膠着気味の展開の中で互角に渡り合ったが、後半に入ると時計が進むにつれてインテンシティの差が歴然と見え始め、PSVに押し込まれて守勢に回る展開になった。

 53分に先制を許した後、63分にいったんはセットプレーから同点に追いついたものの、74分に勝ち越しを許して2試合合計3-3で延長戦に突入。そこでもPSVの攻勢に耐えきれず98分に決勝ゴールを許して敗れ去った。データを見ても、ボール支配率が55%対45%、シュート数25対15(枠内10対4)、XGが3.49対1.67と、内容でも完全にPSVが優勢だったことがわかる。

 「紙の上」では勝ってしかるべき相手だったにもかかわらず、ほとんど主導権を握れないまま押し切られる形で敗れ去ったこの試合には、現在のユベントスの限界が浮き彫りになっていたようにも見えた。具体的には、チームを率いるチアゴ・モッタ監督が、自らの哲学を反映する明確なアイデンティティをチームに与えることができないまま試行錯誤を続けており、それゆえ(とりわけボール保持局面において)コレクティブな連携が希薄で、個人能力による局面打開への依存度が高く、またパフォーマンスのムラも大きい、それが内容と結果の両面を不安定なものにしている――ということになるだろうか。

ボローニャのゲームモデルと構造は一緒だが…

 昨シーズン率いてセリエAで旋風を巻き起こしたボローニャは、モッタがかねてから口にしてきた自身のサッカー哲学が明確に反映されたチームだった。

 一言で言えば、ボール保持によるゲームコントロールに基盤を置いた攻撃的な姿勢を保ちつつ、失点回避にも気を配ったバランス重視の「モダンで手堅い」スタイル。ファイナルサードに人数をかけて強引に攻め立てるよりは、ミドルサードを支配して主導権を握り、じっくり構えて質の高いチャンス(ゲーゲンプレッシングからのショートカウンターも含む)を狙う傾向が強く、得点・失点とも少ないが、その収支はしっかりプラスになっているところが特徴であり強みだった。

 今シーズンのユベントスでも、もちろん選手が違えばゲームモデルも戦術的なディテールも変わってくるのが当然とはいえ、目指すスタイルの大枠とそのベースとなる哲学に大きな変化はないように見える。違うのは、開幕から半年が過ぎた今もなお、チームとしての明確なアイデンティティが確立できずにいる点だ。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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