新生トリニータ、復活への胎動。宮崎キャンプで見えてきたポジティブな変化

トリニータ流離譚 第21回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第21回は、宮崎キャンプで見えてきた新チームのポジティブな変化についてレポートしてみたい。
1月5日に新体制を発表、その翌日からトレーニングをスタートした今季の大分トリニータ。昨季J2残留争いに巻き込まれ16位という不本意な結果に終わった経験を踏まえて、多角的に改善や改革を施して臨んだことが奏功しているのか、開幕が迫ってきた現在も、チームの成熟は順調に進んでいる。
昨季はエコロジカル・アプローチを前面に打ち出して選手の自主性に委ねる部分を多く取りながら、ハイプレスを起点とした「シームレス・フットボール」の構築に挑んだ片野坂知宏監督だったが、プレシーズンに得ていた好感触は、主力候補の相次ぐ負傷離脱により翳り始める。それによりメンバーが入れ替わり立ち替わり状態となり、選手たちは自主的に共通意識を培う難しさに直面。チームとしてのスタイルは夏を過ぎても輪郭を描けず、順位は見る見る沈んでいった。
結局、シーズン終盤に差しかかる頃になって最初の計画を手放し、指揮官が選手たちにタスクを明示するよう方針変更。ハイプレスからミドルブロックへと守備の起点を変えた中であらかじめ守備の奪いどころを定めるなど戦術を徹底したことで、勝ち点が拾えるようになった。ちょうどその頃に長期離脱していた主力たちが続々と戦線復帰したこともあり、複数の要素が重なってチーム状態は上向く。
J2残留を決めたのはリーグも大詰めの第36節だったが、今季はその上り調子を継続するかたちでシーズンインできているようだ。昨季終盤に手応えを得たスタイルをベースに、守備ではより意図的に自分たちからアクションを起こすこと、攻撃では前への矢印を優先してゴールに向かうことを徹底。現時点ではその戦術の大枠の中でプレーヤーの判断の余地も多く、ベンチとピッチの良好なバランスが維持できているように見える。
新体制発表会見の日に片野坂監督が「開幕から勝てるゲームを」と言葉に力を込めたのも、昨季終盤からの積み上げを実感しているからだという。
1軍と2軍、序列を明確化した効果
昨季のプレシーズンはゲームを軸に戦術浸透を進めたが、今季はプレー強度の向上を目指し、素走りなどアスリート要素の強いメニューを増やした2部練習を継続して心身への負荷を高めている。選手たちは口々に「キツい」と悲鳴を上げつつ、励まし合いながらむしろ楽しそうに取り組んできた。時に強風や大寒波にも見舞われながらハードなトレーニングを一緒に乗り越えることが、チームとしての一体感を養っている側面もあるのかもしれない。昨季はアカデミーで指導にあたっていた馬場賢治コーチがトップチームに加わり、現役プレーヤーに近い立場でアドバイスを続けていることも、大きな変革ポイントだ。

1月18日には最初のトレーニングマッチ・日本文理大戦。20日から宮崎でキャンプインして22日には横浜FMとトレーニングマッチ、最終日の26日には宮崎とプレシーズンマッチを行った。プレシーズンに公開で行われる対外試合はここまでで、その後は2回の非公開トレーニングマッチで調整を進める。
興味深いのは、プレシーズンから各ポジションで、戦力にある程度の序列を設けている点だ。……



Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg