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【連載最終回】エコロジカル・アプローチから指導者に伝えたい5つのメッセージ

2024.12.28

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#13

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を共有したい。

第13回は、この連載の最終回として「エコロジカル・アプローチから指導者に伝えたい5つのメッセージ」という形で、この理論の実践者である2人の提案をまとめてみたい。

メッセージ①勝利の女神は大局に宿る

植田「突然だけど、今回がエコロジカル・アプローチに関する連載の最後になります。実践的なメニューを通じてエコロジカル・アプローチの神髄に迫ろうというようなテーマでいろいろと語らせていただきました。最後ということで、お伝えしたい様々なトピックについて触れていければと思います」

古賀「短い期間だったけど、エコロジカル・アプローチが確実に日本に広がっていると実感できたし、指導者同士の交流なんかも生まれてきて、マクロに見ると上手く広がった1年だったね」

植田「自分が思うエコロジカル・アプローチの面白いところは『ミクロでカオス、マクロで秩序』という複雑なシステムの本質を教えてくれるところだと思う。血球のとある一つひとつのヘモグロビンを観察できたとして、その血中での動きを見ると規則やパターンがない。行方もわからないし、血中での動きもランダムだし。しかし、こうしたヘモグロビンの集まりで観察すると、概ね必要な場所に必要な量が送られていることがわかる。『ミクロでカオス、マクロで秩序』とはまさにこのようなことを指しているよ」

古賀「人間の運動も同じだと?」

植田「そう。ミクロにこだわり過ぎていると思う。とある1つの関節の動きにフォーカスして、その正解からのズレを修正するような練習。でも1つの関節の動きは血中をゆらゆらと流れる1つのヘモグロビンの動きにアプローチするようなもので、ナンセンスなこともある。他の関節の動きとの兼ね合いで正解・不正解が決まるからね。やはりここでもマクロの中でパフォーマンスを見ることが大切だと思う」

古賀「『勝利の女神は細部に宿る』という言葉もあるけど、エコロジカル・アプローチに関しては必ずしも当てはまらないのかもしれないね」

植田「ここまで連載を読んでくれた方は気づくと思うけど、『勝利の女神は大局に宿る』。細部よりも大局(マクロ)に、細部よりもコーディネーション(他の関節との兼ね合い)に宿るということ。そして、そのマクロにこだわるのはすごく簡単で結果のフィードバックを利用するだけ。狙った的に当たったとか外れたとか、そうしたシンプルな結果のフィードバックがあれば、マクロ(運動の全体)は整うし、その中の要素である1つの関節の動きも結果に貢献するいい動きになる。だから、細部に対する指導時間を減らして、実際に何かにトライする時間を増やしてほしい。特にゲームライクな代表的な練習から離れすぎないでほしい。これはチーム全体に対する指導も同じ。1人の選手のポジションに対する正解という発想は血中をゆらゆら流れるヘモグロビンのポジションを指摘するようなもの。選手個人より、集団でとあるコンセプトが実現できればいいとするポジショナルプレーへと自由度、柔軟性をどんどん拡張していってほしい」

Photo: Photo AC

メッセージ②ライセンス制度への活用

植田「エコロジカル・アプローチの講習会を通じて他の指導者と交流していると、指導者ライセンスの話によくなる」

古賀「自分たちでも受講したことがあるし、周囲の指導者もライセンスを取りに行っている話はよく聞くね」

植田「個人の指導者にパーソナルコーチングみたいなことをすることがある。特にエコロジカル・アプローチの中身に関して。自分が1時間くらい、例えばバリアビリティ(変動性)という概念について解説して、その指導者に課題を出す。『普段行っているトレーニングにバリアビリティを加えたトレーニングを考えて、実行してください』といった具合に。そして、その練習を撮影してもらって後日フィードバックをするという流れが多い。そしたらそこにまた課題が出てきて、こういう制約の方が良かったのでは?とか、より踏み込んだバリアビリティの話になる。そしたら、またそれを実行・撮影してもらって、フィードバック……ということを繰り返す。そして、これを週1で3カ月ほど繰り返すと、あることに気がつくんだけど……」

古賀「『これって理想的なライセンス講習会では?』ってこと?」

植田「そう(笑)。理想的にはこのように半分は構造化されていて、残り半分はその指導者の興味や悩みに合わせて内容が変わるようなものがいいと思う。半分はカリキュラム、半分はコンサルティングというようなもので、1対1でチューターに観てもらうというイメージ」……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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