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なぜ、ストリートサッカーから優秀な選手が輩出されるのか?マルチスポーツから考える「遊び」の効果

2024.11.25

トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編#12

23年3月の『エコロジカル・アプローチ』出版から約1年、著者の植田文也氏は同年に盟友である古賀康彦氏の下で再スタートを切った岡山県の街クラブ、FCガレオ玉島でエコロジカル・アプローチの実践を続けている。理論から実践へ――。日本サッカー界にこの考え方をさらに広めていくために、同クラブの制約デザイナーコーチである植田氏と、トレーニングメニューを考案しグラウンド上でそれを実践する古賀氏とのリアルタイムでの試行錯誤を共有したい。

第12回は、マルチスポーツの最終回。ストリートサッカーから、なぜ多数の優秀な選手が輩出されるのか?――コーチがオーガナイズする「構造的練習」に対して、子供たちが自発的に行う「非構造的遊び」がもたらす効果について考察してみたい。

「遊び」と「創造性」の深い関係

植田前回まではサッカー以外の競技を含めたマルチスポーツの有用性について紹介させていただきました」

古賀「ボールを使わないアクティビティからサッカーに類似した球技まで様々なものを紹介したね」

植田「アヤックスアカデミーのマルチスポーツプログラムは、サッカーにはそれほど含まれない基礎的動作スキルを柔道、体操、陸上といった他の競技で補い、サッカーに含まれる動作スキルに対してはバスケやハンドボールといった類似性の高い競技でスキルにバリエーションを持たせる取り組みだったね」

古賀「その理由としては、異なる競技で得たスキルが混ざり、新たなスキルへと昇華するような創発性という性能にポイントがあるということだよね」

植田「それらを踏まえてマルチスポーツの利点を考えていくと、なにもコーチが提供する練習のみならず、一般的に公園やストリートで生じる、いわゆる『遊び』にもマルチスポーツの利点が含まれるというのが今日の主題です」

古賀「親やコーチのいない空間で自由に伸び伸びと独自の動作スキルを探索できる『遊び』の有効性をEDA(エコロジカル・ダイナミクス・アプローチ)は強く主張しているよね」

植田「そう。例えば次の表のように、遊びと創造性には深い関係があるとされている。この研究が言いたいことは、要は『よく遊んだ者ほど創造性に富む』ということ。遊びに参加している時間はクリエイティブなプレーヤーほど多く、クリエイティブではないプレーヤーは遊びより専門的な練習(コーチから提供させる練習)に多くの時間を費やしているという結果が出ている¹」

表1:創造的プレーヤーと遊びの関係性。あらゆる球技を対象に、有識者が創造的なプレーヤーと非創造的プレーヤーを選出・グルーピングし、これまでのスポーツ参加歴を調査・比較した。構造的練習とはコーチから提供される専門的な練習プログラムで、ルール、時間的制約、審判の有無などを含む。非構造的遊びとは、子供や参加者の自発的なインタラクションの結果生じるアクティビティで、公園遊び、湖や川遊び、ストリートサッカー/バスケットボールなどが代表格である

1. Memmert, D., Baker, J., & Bertsch, C. (2010). Play and practice in the development of sport‐specific creativity in team ball sports. High ability studies, 21(1), 3-18.

求められるのは「場」の提供

古賀「この研究結果は衝撃的ではあるけども、その直後に思ったのは、自分が経験してきた肌感覚に合うということ。スポーツコーチングの世界にいれば、このような遊びと創造性の関係は直感的に理解できると思う」

植田「とはいえ、スポーツ組織は限られた時間で高い費用対効果を目指して、コーチが作り込んだ練習メニューを提供せざるを得ないという指導圧力がある。だから、最近ではコーチからちゃんとしたメニューが提供されるスクール、アカデミーといった形態だけではなく、単なる『場』の提供を行うチームが現れたところだよ」……

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Profile

植田 文也/古賀 康彦

【植田文也】1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて『トレーニングメニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編』を連載中。著書に『エコロジカル・アプローチ』(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。【古賀康彦】1986年、兵庫県西宮市生まれ。先天性心疾患のためプレーヤーができず、16歳で指導者の道へ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でコーチングの研究を行う。都立高校での指導やバルセロナ、シドニーへの指導者留学を経て、FC今治に入団。その後、東京ヴェルディ、ヴィッセル神戸、鹿児島ユナイテッドなど複数のJリーグクラブでアカデミーコーチやIDP担当を務め、現在は倉敷市玉島にあるFCガレオ玉島で「エコロジカル・アプローチ」を主軸に指導している。@koga_yasuhiko(古賀康彦)、@Galeo_Tamashima(FCガレオ玉島)。

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