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撃ち合い上等!ブレない大分トリニータが挑むのは勝利だけが求められる九州ダービー

2022.10.27

2022J1参入POスペシャルプレビュー~大分トリニータ~

いよいよ30日に幕を開けるJ1参入プレーオフ。1チームだけが昇格を懸けて、J1クラブと対峙する権利を得られるこの痺れる舞台が、3年ぶりに帰ってきた。2022年シーズンのJ2リーグ5位は大分トリニータ。新指揮官に就任した下平隆宏監督の下、時には柔軟に戦術を変えながら、終盤に掛けて調子を上げてきた流れの中、1年でのJ1復帰へと決戦のステージへ挑む。プレーオフ1回戦の相手は4位のロアッソ熊本。果たしてこの一戦はどういう展開を辿るのか。大分トリニータの番記者、ひぐらしひなつが注目の90分間をプレビューする。

“初代王者”が臨む10年ぶりのプレーオフ

 J2最終節を終えて3日が過ぎた10月26日、大分トリニータは次なる目標に向けて再始動した。

 サポーターたちの手によって早朝から横断幕が掲げられたグラウンドで、報道陣に一部公開してのトレーニング。これまでオフ明け初日の練習は戦術的要素が少なく、トレーニング全貌が公開されていたのだが、この日は今季初めての規制。始動日ながら戦術確認を行ったのだろう。

 大分にとっては2012年にJ1昇格プレーオフの最初の覇者となって以来、10年ぶりのチャレンジだ。この殺伐とした大会は2018年からは「J1参入プレーオフ」と名を変え、新たに“ラスボス”というハードルを加えられた。2試合を勝ち上がった“J2代表”はJ1の16位チームとの入れ替え戦に勝利しなくては、昇格を掴み取ることができない。大分をはじめ“J2の3番目”としてJ1昇格を果たしたチームの多くが、わずか1年でJ2へと逆戻りしたことが、その変更の理由だった。

 それを受けてか、J1昇格を目指すJ2の各チームは、従来より明確に「昇格後」をイメージしながらチーム作りを進めるようになった。その結果、かつてのJ2にはどことなく「結局はゴール前を固めておいて前線の強力なフィニッシャーに点を取らせるチームが強いんじゃん……」という風潮があったが、現在は違う。ポゼッション志向の攻撃型チームが増え、いずれも「ポゼッション志向の攻撃型」でありながら、それぞれのカラーをまとってシノギを削っている。今季のJ1参入プレーオフに参戦するのは、クラブの方針や指揮官の哲学を貫いて魔境J2を勝ち上がってきたチームばかりだ。

 来季のカテゴリーを左右する、つまりクラブにとっても選手やスタッフにとっても、その後の人生の分岐点となるだけの重みを持つ一発勝負のトーナメント。上位チームは引き分けで勝ち抜けというレギュレーションもゲームをより刺激的なものにしており、試合運びの重要性が際立ってくる。時にはチームコンセプトをかなぐり捨てて、なりふり構わず勝負に出る決断を求められる局面も訪れるだろう。

勝負の一戦。相手は同じ九州勢のロアッソ熊本

 今季のJ2代表候補となった4チームのうち、その豊富な経験も生かしつつ最も“喧嘩の仕方を知っている”風なのが、木山隆之監督率いるファジアーノ岡山だ。理想と現実のバランスを取りながら、個の戦力の強度をタイミング良く加えて相手をねじ伏せにかかる。また、われらが大分の“ポゼッション・マスター”こと下平隆宏監督は、シーズンを通して高いボール保持率を維持しながら、ルヴァンカップを含めた超過密日程の中ではかなりの柔軟性を見せた。最終節に6位に滑り込んだモンテディオ山形のピーター・クラモフスキー監督は、強い意志の下に攻撃的スタイルを貫く人だったが、第41節の大分戦を前にして、就任後初めてトレーニングで守備を固めて逃げ切る準備を施したという。そしてまさに2点リードして迎えた大分戦の86分から5バックでガチガチの牙城を築くと、焦燥感を増して追撃する大分を尻目に90+2分に3点目を加えて勝ち切った。プレーオフでの一発勝負に向けての用意周到さも感じさせるクローズだった。

J2第41節、山形戦のハイライト動画

 その中で、たとえいかなる流れになったとしても絶対に戦い方を変えないであろうと思わせるのが、ロアッソ熊本を率いる大木武監督だ。スモールフィールドで人とボールがめまぐるしく流動する独特のパスサッカーは、率いるチームも変わりつつ、年々進化を遂げてきた。スピーディーにして流麗なコンビネーションには個々の足元の技術とグループでの阿吽の呼吸が必要なはずで、その近距離でのパスワークに思わず見とれてしまうと、視界の外に大きくボールを運ばれて、一気に局面を変えられてしまう。かつてはほぼショートパスだったところに幅と奥行きを加えたことで、スタイル自体に柔軟性が増し、それを頑なに一貫しているイメージだ。立ち位置も独特で、対戦するとなるとなかなか法則性が見えづらい。

 大分が1回戦で挑むのは、そんな熊本だ。……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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