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この躍進は偶然にあらず。ファジアーノ岡山が準備した周到なJ1昇格への道筋

2022.10.05

第39節終了時点で3位。今シーズンのJ2リーグをファジアーノ岡山が席巻している。知将・木山隆之を新指揮官として迎え入れたチームは、真夏の攻勢で一気にジャンプアップ。クラブ史上最高のシーズンを送りつつある彼らに、シティライトスタジアムは熱狂の渦に包まれている。ただ、この結果はもちろん偶然に導かれたものではない。危機感をスタートラインに、クラブが周到な準備を重ねてきたことは語り落とせない好調の要因だ。今回はファジアーノに密着してきた山陽新聞社の亀井良平が、チームの今を多角的に考察する。

豊富な経験を持つ新指揮官が発した『J1昇格宣言』

 クラブ史上最高の躍進劇だ。

 ファジアーノ岡山はリーグ39試合を終え、J2参戦14年目で最多となる勝ち点69(19勝12分け8敗)を記録し、3位につける。6位でJ1昇格プレーオフ(PO)に唯一進出し、PO決勝(●0-1 C大阪)まで勝ち進んだ2016年以来の期待感と熱気がチームを包み込む。一昨季の17位、昨季の11位から紡いだジャンプアップは、決してフロックではない。

 今年1月8日、岡山市内の商業施設で行われた新体制発表の会見場は、新監督を迎える高揚感に満ちていた。用意された席を記者が埋め尽くし、多くのテレビカメラが構える中、チームカラーのえんじとブルーのネクタイを締め、壇上に姿を現したのは木山隆之。2009年のJ2昇格後、最も豊富な実績を持つ5代目の指揮官は、目の前のマイクを握ると、真っすぐ前を見据え、高らかに宣言した。

 「このクラブを必ずJ1に昇格させる。ファジアーノが今までにたどり着いたことのないステージに必ず昇華させる」

2022新加入会見で就任後初めて挨拶を行った木山監督(49:16~)

 それまで過去13シーズンの戦績は、2016年の6位が最上位。順位のトータルは1桁が4度、10位台が9度。現状打破を図るべく、フロントが三顧の礼をもって迎え入れた百戦錬磨の新監督は、上位進出経験の乏しいクラブで、「J1昇格」を目指す意思をはっきりと示したのだ。あれから9カ月。卓越した手腕で宣言通りの状況に導き、昨シーズンまで漂っていた停滞感を見事に振り払ってみせた。

 その手腕は実に柔軟だ。開幕時は[4-3-3]のシステムでスタートし、今ひとつ波に乗り切れないでいると、第10節のホーム・アルビレックス新潟戦(△1-1)で[4-2-3-1]に切り替え、やや安定を欠いていた守備を修正し、好転に導く。さらに勝負のリーグ後半戦は最前線の強力なタレントを生かすため、2枚のインサイドハーフを置く[3-5-2]を多用。リトリート時は[4-4-2]となる可変システムを取り入れ、効果的な戦いを演出してきた。冷静に流れを見極め、試合途中の布陣変更で勝利をたぐり寄せるゲームも多々あった。

転機となったJ2第10節、新潟戦のハイライト動画

 過去J1、J2の計5クラブを率いた経験に裏打ちされた鋭い観察眼で相手の出方を予測。シーズンオフの充実の補強でパワーアップを果たした戦力に、試合に合わせた戦術を落とし込み、勝ち点を堅調に積み上げてきた。「相手とのかみ合わせを見ながら、それぞれの選手の強みや特長が出るシステム、戦い方を与えてくれる方」。J1の清水エスパルスから今季加入した33歳のMF河井陽介はこう語る。

 シーズン前のキャンプ時から標榜してきた「相手コートで攻守を展開するスタイル」もチームに浸透し、7月以降は10勝3分3敗と好調で突き進む。敵陣に入る機会を逃さないビルドアップをベースに、リーグトップの得点数をたたき出すセットプレーやハイプレスからのショートカウンターを駆使し、総得点はリーグ4位の58。1試合の平均得点は1.49を数え、昨季の0.95から大幅にアップした。 総失点37もリーグで3番目に少なく、ファジアーノ伝統の堅守に加え、高い攻撃力が備わっている。

闘将ヨルディ・バイス。大物ルーキー佐野航大。新加入選手の高い貢献度

 この強さの原動力となっているのは強力外国人たちだ。得点ランキング2位の16ゴールをたたき出すFWチアゴ・アウベス、今秋のカタールW杯出場が期待されるオーストラリア代表FWミッチェル・デューク、非凡な決定力を兼備するMFステファン・ムーク、切れ味鋭いドリブルが光るFWハン・イグォン。中でもゲームキャプテンを担うDFヨルディ・バイスは欠かすことができない。

 昨季、京都サンガF.C.をJ1に引き上げた33歳の闘将は岡山の地でも真価を発揮し、抜群の危機察知能力を生かしたカバーリングとインターセプト、統率力で守備を強固に引き締める。特筆は、並外れたメンタリティーとカリスマ性だ。チーム内に初めて新型コロナウイルス感染が広がった8月中旬。混乱の中、4位で臨んだ当時首位・横浜FCとのアウェイでの大一番は互角以上の戦いを繰り広げながら、0-1で苦杯をなめた。

 「1人欠けようが11人欠けようが、それは関係ない。言い訳は敗者のすることだ。ファジアーノは絶対に諦めない。絶対に立ち上がる力が我々にはある」

 敗戦直後のミックスゾーン。ヨルディ・バイスのまなざしはいつも以上に強く、チームメート、メディア、サポーターに訴えかけるような口調で言葉をつないだ。そこからチームは再び立ち上がり、クラブ最長タイとなる怒濤の4連勝。今シーズン、連敗は実に1度(2連敗)だけ。チームに宿る、このリバウンドメンタリティーの根源は、この男のリーダーシップに他ならないだろう。

8月にはリーグ月間MVPにも選出されたバイス

 決して、外国籍選手に頼るだけではない。ルーキーもまばゆい輝きを放ち、シーズンを通して主力の座を確保する大卒コンビはチームを突き動かすエンジンと言える。……

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ファジアーノ岡山戦術移籍

Profile

亀井 良平(山陽新聞社)

1986年、岡山県生まれ。玉野光南高から立命館大を経て、2010年に山陽新聞社に入社。本社運動部に所属し、これまで高校野球などを担当。2018年からファジアーノ岡山の担当記者となり、現地取材を続ける。過去に前監督・有馬賢二の1年間を追った「J指揮官の実像」などを連載。

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