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アメリカで人気のサッカーチーム、実は存在しない架空のチーム

2020.07.16

 人気が高まりつつあるアメリカのサッカー界。今シーズンからデイビッド・ベッカムが所有するインテル・マイアミCFが参入し、さらに盛り上がりを見せるはずだったが、コロナ禍のため3月に中断。ようやく今月に入って「MLS is Back Tournament」というカップ戦で再開を迎えたところだ。

 そんなアメリカには、MLSにも2部以下のリーグにも参戦していないのに人気を博すチームがあるという。それがニュージャージー州を拠点とするアズベリー・パークFCである。彼らが所属するリーグは、この世には存在しない。そもそも、そんなチームなど存在しないからだ。

ユニフォームやグッズも販売

 存在しない、と言うと語弊があるかもしれない。彼らにはクラブHPもユニフォームも愛称もある。何よりサポーターだっている。しかし、チーム自体は存在しない。彼らは実際にはサッカーをしていない架空のチームなのだ。

 『BBC』によると、2014年にアズベリー・パークFCが設立されて以降、アメリカでは同じような架空クラブがどんどん誕生しているという。

 「アメリカのサッカーは、何もないところから生み出す作業だからね」と、アズベリー・パークFCを設立したショーン・フランシスは語る。

 「アメリカにも20世紀からチームはあるが、他の国とは比べものにならない。リーグや文化、伝統など、あまりにも差を付けられている。だからアメリカは自分たち独自の世界を作っているのさ」

 そのためにMLSが先頭に立って頑張っているわけだが、それを“クール”に思えない人も多いそうだ。そんな人たちがアズベリー・パークFCを支持している。なぜなら、このクラブはユニークだからだ。

 公式HPでは有名スポーツブランドの本格的なユニフォームを販売。胸にはスポンサーのロゴも入っている。韓国の大手電子製品メーカーと見間違いやすい「SAMESONG」という架空のスポンサーだ。

 可愛らしいクラブのロゴが入ったスカーフや帽子などのグッズも販売している。売れ行きは上々で、商品の大半はすぐに完売するという。

 そして架空のクラブなので、歴史も自由に築くことができる。クラブの紹介文には「1950年代に数多くのトロフィーと“ヒットシングル”を飛ばしたことで有名」と記されているのだ。最近では「町の会議場の屋上に5000人収容のスタジアムを建設する」と発表した。

 日本でも人気ブランドが架空のチームを想定してアパレルやグッズ販売を展開しているが、それに近いのかもしれない。

著名人のファンも多数

 では、なぜ冗談で始まったチームが人気を集めているのか。理由の1つは、ニュージャージー州という地域性にありそうだ。主要スポーツのプロクラブで「ニュージャージー」を名乗っているのはNHL(アイスホッケー)のニュージャージー・デビルズだけ。

 州内の5大都市がニューヨーク都市圏のため、ニュージャージーを拠点にしながらも「ニューヨーク」と名乗るチームが多いのだ(ニューヨーク・ジェッツ、ニューヨーク・ジャイアンツ、ニューヨーク・レッドブルズ)。

 「他にニュージャージーの代表となってくれるチームがいないからね。それに、うちのチームをサポートしても、誰とも口論にならないのさ!」と発起人のフランシスは語る。共同設立者はギタリストのため芸能界にも顔を利くようで、彼らには著名人のファンがいる。

 パンクロックバンド『バッド・レリジョン』のギタリストや、名優ダニー・デヴィート、『ストレンジャー・シングス』で注目を集めた俳優のゲイテン・マタラッツォなど、ニュージャージー出身(もしくは在住)の著名人の支持を得ている。

 同クラブの成功を受け、ユタ州ではソルトエアFC、ペンシルベニア州ではフィッシュタウンFCなど、架空のクラブが続々と誕生しているそうだ。サッカーには、まだまだ様々な楽しみ方がある。


Photo: Getty Images

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インテル・マイアミデイビッド・ベッカム文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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