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PSGに新たな攻撃ユニット誕生。その名も「ファンタスティック・フォー」

2020.01.13

 「ファンタスティック・フォー」というと、まるでアメコミのヒーローみたいな響きだが、これは新たにパリ・サンジェルマンに誕生した、キリアン・ムバッペ、マウロ・イカルディ、ネイマール、アンヘル・ディ・マリアによるオフェンスラインだ。

選手が望んだ超攻撃システム

 PSGにはこれまでムバッペ、エディンソン・カバーニ、ネイマールの「MCNトリオ」が存在していた。しかし、攻撃陣の4番手だったディ・マリアが今シーズンは絶好調。さらにインテルからイカルディも加わったため、トーマス・トゥヘル監督は最適な攻撃システムを見付けるべく試行錯誤を重ねていたのだった。

 シーズン序盤はそれぞれの負傷でトリオがそろう機会がなかなか訪れず、結果的に手元にある戦力で回している感じだったが、ネイマールが完全復帰した2019年11月末頃から、真に機能するシステムの重要性が浮上した。

 一つのきっかけになったのは、UEFAチャンピオンズリーグのグループステージ第5節のレアル・マドリー戦だ。試合前の段階でノックアウトステージ進出は決まっていたが、問題は結果より内容だった。序盤からR・マドリーのペースで進み、カリム・ベンゼマの2得点で2-0とリードを奪う。PSGは80分を過ぎてからムバッペとパブロ・サラビアが2点を返し、なんとか同点で終えたが、鬼神のごときスーパーセーブを連発したGKケイラー・ナバスの奮闘がなければ悲惨な結果に終わっていた可能性もあった。

 欧州トップクラスと言われる攻撃陣を擁しながら攻めあぐねたこの試合の数日後、選手とスタッフはミーティングを行い、いまのPSGが追求すべきプレースタイルについて話し合った。

 R・マドリー戦では後半開始からネイマールが出場し、ディ・マリアとイカルディが交代するまでの30分間、ピッチ上に「ファンタスティック・フォー」の4人が並んだが、この時は大きなインパクトは残せず、トゥヘル監督の頭には「この4人を同時に使うのは難しい」という考えもあった。その上で選手たちに希望のシステムを尋ねたところ、彼らは「より攻撃的なオプションを」と、この4人による超オフェンシブシステムを望んだのだった。

「全員が走る」ことを4人も承諾

 「ファンタスティック・フォー」を採用する場合は、イカルディがトップ、セカンドストライカーにムバッペ、両サイドにネイマールとディ・マリアという[4-4-2]に近い並びになるが、試合途中でネイマールが上がってディ・マリアがトップ下に入る[4-3-3]にも応用可能なフレキシブルなシステムだ。

 「それを望むのであれば……」とトゥヘルが条件として提示したのは、彼ら4人もディフェンスに参加することだった。MFマルコ・ベラッティもこう証言している。

 「選手に求められるのは、システムうんぬんよりも全員が走ることだ。いまの強豪チームにはトッププレーヤーしかいない。だからどの選手に対してもしっかりプレスをかけることが不可欠だ。でなければ、すぐにボールを奪われてしまう」

 トゥヘルは、「ファンタスティック・フォー」を採用することで中盤のベラッティやマルキーニョスらが終始走り回るような負担があってはならないと考えていた。するとそのミーティングの席で、ネイマールは「(ディフェンス参加に)努力する」と答えたという。そして1月8日のリーグカップ準々決勝、対サンテティエンヌ戦(6-1でPSGが大勝)では、ネイマールが実際にタックルで相手からボールを奪ってみせた。

 「ネイマールがタックル!?」と、このワンプレーはメディアの間でも大げさなくらい話題になった。試合後、ムバッペも「ネイマールのタックルはしっかり目撃したよ。あれはチームの姿勢を象徴したものだ」と強調した。

攻撃力アップ、意識も変化

 くだんのミーティングの後、このリーグカップとリーグ第18節のサンテティエンヌ戦(4-0)、第19節アミアン戦(4-1)の3試合で「ファンタスティック・フォー」が採用されたが、PSGはいずれも大勝。3試合で計14点という大量得点をマークした。

 しかも、そのうち相手のオウンゴール1点を除く13点を「ファンタスティック・フォー」のメンバーが決め、9点は彼ら同士でアシストと、この4人による攻撃網が絶大な威力を備えていることを証明してみせた。

 ムバッペが言ったように、ネイマールが積極的にディフェンスに参加する姿には、戦力的な面だけでなく、チーム全体のやる気を刺激する、というメンタル面でも効果がある。

 実力は申し分ないものの、それだけに個人技でねじ伏せることも多々あったPSGの攻撃陣にチームプレーの意識が加わり、ここからどのような変化をもたらされるのか。その効用はまず、2月18日のCLラウンド16第1戦のドルトムント戦で試される。


Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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