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新規建設でも改修でもないのに…なぜか遠いホームスタジアム

2019.06.21

25kmも離れた場所でホームゲーム

 ホームゲームと言いながら、ホームから離れた場所で開催される試合は珍しくない。トッテナムが新スタジアム建設中に15kmも離れたウェンブリー・スタジアムを本拠地として使ったり、ウェストハムがアップトンパークから4km離れたオリンピック・スタジアムに移転したり。はたまたイタリアでは、アタランタがスタジアム改修工事のため今季のホームラスト2試合を130kmも離れたサッスオーロで開催し、見事にチャンピオンズリーグ出場権を手にした例もある。それから“遠方”のホームゲームといえば、シャフタール・ドネツクだろう。彼らは紛争地帯の本拠ドネツクから1000kmも離れたリビウをホームにしていた時期がある。

 だからイングランド3部のコベントリー・シティが、来季は25kmほど離れた場所でホームゲームを開催すると発表しても大した事件ではないのだろう。たしかにそうなのだが、冒頭に挙げたクラブにはスタジアム移転や改修工事、もしくは紛争といった避けられない理由があった。しかしコベントリーは違う。これまで本拠地として使用してきたリコー・アリーナは健在だ。わざわざ25kmも離れたバーミンガムのセントアンドリューズ・スタジアムを間借りしなくても良いはずなのだが、彼らは“大家さん”と裁判沙汰になり、本拠地を離れることになった。

 そもそもリコー・アリーナは、2005年にコベントリーの新スタジアムとして建設された。長らく日系企業がネーミングライツを所有しているため日本のファンにも馴染みがあるかもしれない。2012年のロンドン・オリンピックでも使用され、日本代表は男女ともこのスタジアムで試合を行っている。

リコー・アリーナをめぐる裁判沙汰

 リコー・アリーナを取り巻く問題の発端は2013年にある。コベントリーのオーナーであるヘッジファンドの『SISU』社が、自治体が所有するリコー・アリーナの賃貸料の支払いを拒否したのだ。以前からスタジアムの買い取りを画策していたコベントリーは、安価で買収するために賃料支払いを拒否したとされる。その揉めごとが長引き、結局コベントリーは2013-14シーズンを45kmも離れたノーサンプトン・タウンの本拠地で過ごしている。

 そして翌2014年、スタジアム問題は新たな局面を迎える。とあるクラブがリコー・アリーナの買い取りにこぎつけたのだ。それが、ラグビー・ファンにはお馴染みのワスプスである。ワスプスは、元々はロンドンを拠点とし、2004、2007年にヨーロッパ王者にも輝いた名門クラブだ。彼らは新たな本拠地を探しており、これまでのクラブ名「ロンドン・ワスプス」からロンドンを取って「ワスプス」としてコベントリーに移転したのだ。

現在、リコー・アリーナはラグビーのワスプスの本拠地に

 ここ数年は、ワスプスがコベントリーにスタジアムを貸し出す形で、リコー・アリーナでホームゲームが行われてきた。だがそれも昨季までのこと。『SISU』は、自分たちが買い取れなかったスタジアムを、自治体が「不当に安価で売却した」として裁判を起こしていたのだ。2800万ポンド(約40億円)も安く見積もられたと裁判を起こしたものの、今年4月に最高裁で負けると、今度は欧州委員会にまで泣きついた。

 そのため、来季のスタジアム使用について両クラブが協議した際にワスプスは「訴えの取り下げ」を要求した。だがコベントリーは頑なに拒否し、結局、スタジアムの共有はご破算となった。

本拠地を失ったコベントリーのファンは、25km離れたバーミンガムでホームゲームを観ることに

 そのせいで、コベントリーのファンは25kmも離れたスタジアムでホームゲームを観戦することになる。たかが25kmかもしれない。それでもファンの中には、自分の肉親の遺灰をリコー・アリーナにあるメモリアル・ガーデンにまいた者もおり、親しみのないスタジアムを簡単に「ホーム」とは呼べないようだ。

Photos : Getty Images

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コベントリー文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。