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神戸新監督、フィンクって何者? レネ・マリッチが解説するその姿

2019.06.11

ヴィッセル神戸のドイツ人新監督

 6月8日に、ドイツ人のトルステン・フィンクがヴィッセル神戸の監督に就任した。これまで、スイスのバーゼル、ドイツのハンブルガーSV、そしてオーストリア・ウィーンなど、主にドイツ語圏で活動してきた監督だ。選手時代も、バイエルンで欧州CL優勝を経験するなど、基本的にはドイツ語圏が主戦場だったフィンク監督。これまで“スペイン路線”の筋道を見せてきたヴィッセルは、一変してこのドイツ人に舵取りを任せることになる。

現役時代はバイエルンでMFとして活躍したフィンク

 監督としてのフィンクの特徴はどのようなものなのか? フィンクのオーストリア・ウィーン就任が決まった直後の2015年6月、RBザルツブルクのコーチに就任する前のレネ・マリッチが、フィンク監督の特徴をオーストリアのサッカーポータルサイト『アープザイツ(Abseits)』にまとめている。バーゼルとハンブルク時代という若干古い情報になるが、フィンク監督の基本コンセプトをつかむ手がかりになるだろう。

 まずマリッチの目についたのは、バーゼルとハンブルク時代で共通するビルドアップの方法だ。基本的に、ダブルボランチのどちらかがセンターバックの間に降りてきて、3枚でチームの底を形成する。同時に、ボール保持時にも、そのまま3バックのように留まる。そうすることで、両サイドの「ハーフスペースまで開いたセンターバック、サイドバック、ウイングを生かしてサイドに数的優位を作る一方で、中央のカウンター対策を講じる」という。

 こうして、後方と中盤のサイドに人数を集めてボールを回しながら、相手が前に出てきたタイミングを見計らって素早いコンビネーションでシュートまで持ち込む。崩しのスイッチが入ったあとは、あまりに早急にシュートを狙うので、「慌てているかのような」印象も与えるようだ。バーゼルのように、国内リーグで他チームと力の差がある場合は、ジェルダン・シャキリのような「個の能力に優れたウイング」のドリブラーが前線で順調に得点に絡み、成績も付いてきた。バーゼルでは、リーグとカップ戦のダブルという成功を収めることができた。

HSV時代に露見した“弱点”とピッチ外での顔

 続くHSVでも、基本的にはやり方は変わらない。前任者だったミヒャエル・エニングが率いたハンブルクと比べて、フィンクがチームにもたらしたものは、「中盤がDFラインにまで降りてくるビルドアップ、各選手に最適な役割と配置の分担、そしてポゼッションを基盤としたチームの安定性」だという。また、ハンブルク時代には、相手陣内でのハイプレッシャーを機能させ、降格の危機にあったチームを立て直した点もマリッチは評価している。

 その一方で、“弱点”も明確だったようだ。リーグで中堅程度の戦力だった当時のHSVでは、前線でバーゼルのように“個の優位性”を生かせなかった。そのせいで、シュートまで持ち込むことができず、崩しきれないシーンが増え、カウンターからピンチを招く機会も増えた。とりわけ、サイドに人数を割くあまり、中盤をひとりで支えるボランチの両脇のハーフスペースを使われて苦戦を強いられている。

ハンブルガーSVでは当時若手だったソン・フンミンを指導

 マリッチの解説から離れてピッチ外に目を移せば、バーゼルではシャキリやグラニト・ジャカ、ハンブルクではソン・フンミンのように若手を積極的に登用して輝かせるのが特徴だ。常に才能ある若手に活躍の場を与えており、選手の能力を見極めるという点でも、実績を残している。

 一方では、好成績を収めたオーストリア・ウィーンでは試合後のインタビューで司会者と“舌戦”を繰り広げて話題となり、選手時代にも「機嫌の悪いフィンクには近づくな」と評判が立ったこともある。Jリーグの舞台でも、強面のドイツ人の一挙手一投足を楽しみたい。

Photos : Getty Images

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ヴィッセル神戸トルステン・フィンク戦術

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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