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イベント盛況、強力な代表…気運高まるイングランドの欧州制覇

2022.03.13

 今夏、イングランドの“欧州制覇”に期待が高まっている。昨年のEURO 2020のファイナルではPK戦の末にイタリアに敗れてタイトルを逃したイングランド代表だが、今度はイングランド女子代表がヨーロッパの頂を目指すのだ。

W杯予選で圧倒的強さ

 女子EURO 2022は当初、昨年夏に開催する予定だった。しかしコロナ禍の影響によって男子のEURO 2020や東京五輪が2021年夏の開催へと変更になったため、女子EURO 2022も1年の順延が決まった。開催地は予定通りフットボールの母国であるイングランド。7月31日に聖地ウェンブリー・スタジアムで決勝戦が行われる。

 イングランド女子代表は3年前のFIFA女子ワールドカップで2大会連続ベスト4に入った。前回のEUROを含めれば、国際主要大会では3大会連続で準決勝まで勝ち上がっているのだが、いまだに頂点に上り詰めたことがない。母国開催となる今年のEUROで初優勝が期待されるイングランドでは、日に日に女子サッカーへの関心度が高まっているという。

 昨年9月にオランダ人指揮官のサリナ・ビーフマンを招聘して以降、イングランド女子代表は9試合負けなし。W杯予選ではここまで無傷の6連勝。そして53得点0失点という圧倒的な強さを誇っている。11月のラトビア戦では「20-0」でイングランド女子代表の公式戦における過去最高の勝利を収めた。そのため欧州制覇に向けての気運が高まっており、女子サッカー人口も着実に増えているようだ。

昨年11月の女子W杯欧州予選ラトビア戦では20-0という圧倒的な勝利を収めた

 毎年3月8日は「国際女性デー」だが、今年はその翌日の3月9日にイングランドで女子サッカーを推進する『Let Girls Play』のキャンペーンが開かれた。イングランドフットボール協会(FA)がスポンサー企業と協力し、英国の小・中学校で女子サッカーの普及に取り組んだのだ。

 今回のイベントは、体育の授業や休み時間、放課後に女子サッカーを開催するというもの。小・中学校合わせて過去最多の1450校が取り組みに参加し、英国全土で計9万人以上の少女がサッカーを楽しんだという。

 アーセナルの女子チームで活躍した元イングランド代表FWケリー・スミス(43歳)も、ロンドンの学校で今回のイベントに参加して少女たちと汗を流した。「9万人なんて驚きだわ」とスミスは英紙『The Guardian』に話している。「女の子たちのサッカーへの情熱とハングリーさを肌で感じたわ。私がサッカーを始めた当時、学校でサッカーをしている少女は私だけだったわ。それがこんなに増えたのだからうれしい限りだわ」

女子サッカー普及のために

 確かに、今はイングランドにも女子スーパーリーグというプロリーグがあるが、女子リーグが完全プロ化されたのは2018年のこと。まだ最近の話なのだ。当然、ケリー・スミスが子供の頃にはプロリーグはなく、所属していたアーセナル女子チームもアマチュアだった。そのため、彼女はプロ選手の夢を追いかけてアメリカの大学に進学したのだ。

 そしてアメリカでプロの道に進んだが、2002年にアーセナル女子チームがプロ化を果たしたことで、その数年後にロンドンに戻ってきて母国でもプレーした。イングランド女子代表として117試合に出場して46ゴール。この得点数は、昨年11月にエレン・ホワイトに抜かれるまで同代表の最多記録だった。

アーセナル女子チームでも活躍したケリー・スミスは女子サッカーの発展に期待を寄せる

 スミスはこう続けている。「私はプロ選手の夢を叶えるためにイングランドを離れなければいけなかった。でも今は、この国にもプロリーグがある。私は皆に言いたいわ。『コーチの声に耳を傾けてひたむきに努力すれば不可能はない。世界はあなたのものだ』ってね」

 だが、スミスは現状に満足していない。「今の女子サッカーの数字には少し不満があるわ。すべての小・中学校で男子サッカーがあるのなら、女子サッカーも同じようにあるべきよ。いつの日か、こういうイベント自体を開く必要がなくなることを願っているわ」

 現在、英国では体育の授業に女子サッカーを取り入れている学校は全体の63%しかなく、部活やサークルなどの女子サッカーのクラブ活動となると、わずかに40%だという。FAの目標は、2024年までに女子サッカーの授業を90%、クラブ活動を75%まで引き上げることだ。

 そのためには代表チームの活躍が必須だろう。「もちろん優勝を狙えるわ」と、スミスは今夏の女子EURO 2022でのイングランド女子チームへの期待を『Sky Sports』に語った。「今の代表チームは過去最高のタレントをそろえていると思う。(地元開催で)観客の後押しもあるので、どんなことだって可能だと思う」

 今夏のイングランド女子代表の活躍が、英国での女子サッカーのさらなる普及につながるはずだ。


Photos: Getty Images

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アーセナル・レディースイングランド女子代表ケリー・スミス

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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