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監督交代は1度まで。ブラジル全国選手権で初の試みを実施へ

2021.04.15

 5月29日に開幕するブラジル全国選手権について、CBF(ブラジルサッカー連盟)は、この国のサッカー史で初めてとなるルールの採用を決めた。それは、12月5日まで続く今季の全国選手権の間、各クラブが契約できる監督を、最大2人までに制限するということだ。

大半のクラブが導入に賛成

 正確には、クラブが大会中に監督を解任し、新たな監督と契約できるのは1回まで。もし2人目を解任した場合、そのクラブに少なくとも6カ月所属している社員だけが、代行監督としてチームを指揮することができる。もちろん然るべき監督ライセンスを所持していることが条件なので、対象となるのはクラブ所属のアシスタントコーチや下部組織の指導者だろう。ただし、監督自身が辞任を申し出た場合は、1回の監督交代にはカウントされない。

 一方、監督の方でも、辞任を申し出てクラブを去った場合、そのシーズンの同選手権で他のクラブを指揮するのは、もう1つまでしか認められない。

 もともと、常套句のように「3試合負けたら解任」と言われる通り、ブラジルサッカーでは、結果が思わしくない場合、すぐ監督交代に走るクラブが少なくない。

 昨季の全国選手権でも、1部だけで28の解任が行われ、1人の監督で通したのは、全20クラブ中わずか3クラブ。良くも悪くもそれが文化や伝統とされてきた中で、CBFはここ3年間、この新ルールをクラブに提案してきたが、これまでは同意を得られなかった。

 それが今季、全国選手権1部に属するクラブの投票では、賛成11に対して反対は9で、ルール採用となった。続く2部の投票では、全20チーム中、18対2の大差で採用が決定。3部に至っては、全20チームの満場一致で採用。全68チームの4部だけがこの新ルール採用を見送った。

クラブ経営の健全化にも繋がる

 クラブでは経営努力、選手の補強、下部組織や施設など基盤の整備をはじめ、様々な方面を総合したプロジェクトが必要だ。契約する監督の人選や契約後のクラブとの関係も重要なポイントであり、今回の決定はメディアでも大いに議論されているが、やってみる価値がある、という意見が多いようだ。

 引き合いに出されるのが、昨季の全国選手権で2部降格となった4チーム。ボタフォゴとコリチーバがそれぞれ4人の監督と1人の代行監督、ゴイアスとバスコダガマがそれぞれ3人の監督と1人の代行監督、というふうに、いずれも監督交代を繰り返した迷走ぶりがうかがえる。

 サッカージャーナリストのパウロ・ビニシウス・コエーリョは「クラブの浪費と、監督や選手にとっての継続的な仕事の欠如を改善する唯一の方法」としている。監督交代を繰り返すクラブが、それにともなう支出の増加をカバーできていない例は多い。

 また、元ブラジル代表選手で、現在はサッカーコメンテーターのカイオ・ヒベイロは、監督解任にはサポーターからのプレッシャーも影響していることを語り「サッカーを動かすのは情熱だが、その情熱はサポーターのもの。クラブを運営するプロフェッショナルたちは、監督を解任する時ではなく契約する時の責任を背負い、決断を下すための準備ができていなければならない」としている。

 この新ルールに賛成の投票をしたフルミネンセでは、会長が「1人の監督がシーズン中、1つの大会で3つも4つもクラブを渡り歩く、というのは、競争の不均衡に繋がる」と語っていた。

 一方、グレミオは反対の投票をした。ただし、グレミオはブラジルでは珍しく、2016年9月からの長きに渡ってヘナト・ガウショが一貫して監督を務めている。そして、毎年全国選手権上位を維持し続けている。それでも、会長は「1人の監督に長く務めてもらうのは運営のコンセプトだ。我われには重要なことであり、それがプロジェクトの一部でもある。しかし、そう思わないクラブが1回を超えて監督を交代させても良い」と語っていた。

多くの意見や予想が飛び交う

 監督側も概ね歓迎のようだ。もともとこのルールは、ブラジル代表のチッチ監督が強く提言してきたものでもある。

 「監督を交代させられないとしたら何が起こるか?(クラブを運営する)人びとがきちんとしたプロジェクトを組み立て始める。しかも机上の空論ではなく、そのプロジェクトを実行していくことになる」

チッチ監督(中央)は以前から今回のルールを強く提唱し続けてきた(Photo: Lucas Figueiredo/CBF)

 元ブラジル代表アシスタントコーチであり、監督としても鹿島アントラーズを含む多くのクラブを指揮しているジョルジーニョは、クラブと監督の双方が慎重に検討して選択するようになる上に「サッカーのクオリティを上げることにも繋がる。監督がより良い仕事をするための時間を得られるんだから」と語っている。

鹿島アントラーズでも監督を務めたジョルジーニョは「サッカーの質が上がる」ことを期待しているようだ
(Photo: Bruno Corsino/ACG)

 クラブのプロジェクトという面では、ボタフォゴを指揮したエドゥアルド・バホッカが「クラブは2人目の監督を解任する可能性に備えて、より優秀なアシスタントコーチを、社員として抱えるために投資するようになるのではないか」と予想する。

 パルメイラスのポルトガル人監督アベウ・フェヘイラのアシスタントコーチ、ジョアン・マルチンスは「ヨーロッパではそういう制限がすでにある。それに、ここブラジルでは試合数が非常に多いから、チームを最高レベルで維持するのが難しいんだ。多少厳しい時期があっても、それは選手や監督の能力不足ということではない」とする。

 若手監督の間では、全国選手権1部のクラブが、安全のために、すでに多くのタイトルを獲得しているベテラン監督ばかりを求めるようになり、新鋭監督へのチャンスが減ることを不安視する声もある。

 逆に、経験豊富な監督たちが1部で解任された後、2部以下のクラブであっても、クラブのプロジェクト次第では、そこで腕を振るう例も出てくるのでは、と予想する声もある。

 多くの意見や予想が飛び交う新ルールだが、ともかく今季、ブラジルサッカーは大きな変化を経験する。その功罪は、シーズンを通して議論されていくことになるだろう。


Photos: Lucas Figueiredo/CBF, LUCAS UEBEL/GREMIO FBPA, Bruno Corsino/ACG

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。