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「Jリーグマネジメントカップ」仕掛け人に聞く、Jクラブの経営状況(後編):成長戦略の明確な答え=「三段階ロケット」方式とは?

2026.01.09

世界から見たJリーグ#7

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第6&7回は、デロイト トーマツグループが発行する「Jリーグマネジメントカップ」の仕掛け人・里崎慎氏に経営面から見たJリーグの現状を聞いた。後編では、レベニュー(収益)の柱であるスポンサーシップ、放映権料、入場料=スタジアムの最新トレンドを掘り下げつつ、「伸び代は大きくある」というJクラブの成長戦略についてのロードマップを提示してもらった。

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「権利活用型」から「共創型」へ。スポンサーシップの可能性

――発表された数字としてのデータだけに基づいてJクラブの経営を見ていくということになると、基本的には「レベニュー(収益)をどう増やすか」という点と「コスト、つまり投資をどのように配分するか」という両方の部分になると思いますが、経営の戦略性が見えるのは、レベニューよりはむしろコストの部分なのかな、という気もしています。今のJ1のクラブに話を限るとして、これから日本のプロサッカーのトップ層として、国際的なマーケットやピラミッドの中でより地位を高めたり、あるいはビジネス自体を国際的に広げたりしていく上で、今取り組むべき、あるいは重点的に投資すべき分野はどこになるとお考えでしょうか。

 「これも何が正解かはわからないのですが、現実的な回答と願望的な回答の両方があると思います。現実的な回答でいけば、やはり日本の今の外部環境が劇的に変わらない限りは、『パートナー(スポンサー)シップ』の領域がどうしても主軸になるのかなと思っています。

 収益構造を見ていただいてもわかる通り、Jクラブの収入源の半分以上は、パートナーシップやスポンサーシップによってもたらされている現状があります。本来であれば、入場料収入などでしっかりと稼げるともっと良いのですが、スタジアムのキャパシティの問題などもありますので、そこは一定の頭打ちがあると考えられます。そうなると、『青天井』で伸び代のある領域、つまり頑張れば頑張るだけ増やせて、しかもクラブが自助努力で開拓できる領域となると、やはりパートナーシップの領域だと思うのです」

――スポンサーシップのトレンドも教えていただいてよろしいでしょうか。

 「今、スポーツ庁や経済産業省などもそのあたりにフォーカスし始めていますが、スポンサーシップの形も時代とともに変わってきています。もともとは『頑張っている人を助ける』という協賛型から始まり、その後、露出を前提とした『商業型』『権利活用型』という形が上乗せされてきました。しかしコロナ禍で、それまでの権利が一時的に使えなくなった時期がありました。これだけではダメだということで、コロナ禍以降に急速に広まってきているのが『共創型』と呼ばれるものです。

 『共に作る』スポンサーシップ、パートナーシップということで、いわゆる『パートナー・アクティベーション』と言われていますが、そうした領域の取り組みが今、足元で非常に増えている状況だと捉えています。これまでの、ただ『ユニフォームの胸にロゴを出します』とか『ネーミングライツを売ります』という話だけではありません。企業の経営課題と、自分たちコンテンツホルダーが持っているアセット(資産)をうまく掛け合わせることで、新しい付加価値を生んでいく。そこに対してスポンサードとしてお金をいただくというビジネスの取り組みに芽が出てきている状況です。ここを大きくしていくことは、クラブの経営努力で成長させられる領域として十分にあり得る話だと思っています。日本においては、欧州に比べてもまだまだ活用の余地が広いので、伸ばしていける領域だと考えています。

 本来であれば、欧州のスポーツビジネスがそうであるように、放映権料が大きくなって巨大なビジネスになるのが、クラブにとっても一番ありがたい話なのだとは思います。ただ日本においては、ストリーミングサービスとの契約で一度プチ・インパクトはありましたが、海外と比べると、ベッティング(賭け)の影響などもあり、放映権料が跳ね上がるような構造には今なっていません。これが我々の客観的な見立てです。もしスポーツベッティングが解禁されれば放映権の動向もだいぶ変わるのでしょうけれど、それがない以上は、放映権料が上がることを期待した経営だけをやっていても、なかなか伸びていかないのが現状です」

徐々に進む新たなレベニュー創出の動き

――クラブの自助努力によってビジネス規模を大きくする、レベニューを増やしていく必要性が切実になってきているということですね。

 「はい。そうしたパートナーとのアクティベーションや、自分たちの持っているアセットでまだマネタイズできていないものを、いかにマネタイズするかという発想が、今のステージとして求められる部分だと思います。そこをやるだけでも、おそらく全然絵が違ってくるとは思っています。

 Jリーグマネジメントカップの中で、我々が継続的にJリーグ側に訴えてきた『開示情報をもうちょっと細かく出して、精緻化してほしい』という要望があるのですが、今回からは移籍金に関する情報が出てくるようになりました。このあたりは、やはりリーグとしても力を入れて、今後の新しいビジネスポテンシャルとして期待している部分なのだろうな、と感じています。

 そして我々も、ここについては伸び代が十分にあると考えています。特に、日本人選手が海外の本当にメジャーなクラブのキャプテンを務めるような世界観になってきていることを考えると、一昔前のように『欧州でプレーできるのなら、タダでもいいから送り出そう』という話ではないはずです。普通にビジネスとして、しっかりと移籍金を取って送り出していくという商売が本来できるはずなのですが、まだ日本側の体制が、気持ちも含めてそこに追いついていないところがあって、かなり取りっぱぐれている部分があるものと思っています。

Photo: Takahiro Fujii

 ここを大きくしていくことは、プロサッカークラブとしての大きなビジネスポテンシャルの柱になり得るでしょう。特に日本人の育成の仕組みや、日本人のメンタルを含めた商品価値のようなものは、今、世界でもどんどん認められてきている状況であることを考えると、少なくともアジア領域においては、ヨーロッパなどにつなぐ玄関口になれる可能性があるリーグだと思っています。そこは非常に大きなポテンシャルとしてありますので、リーグとしてもそこを狙っていこうと思っているはずですし、クラブと連携してしっかりと体制を作っていくことができれば、すごく期待できると個人的には思っています」

――レベニューの伸び代が大きいのはパートナーシップ、スポンサーシップというお話でしたが、クラブ別のスポンサー収入の絶対額を見ると、額が大きいところは大体親会社からの資金注入の額が高いという印象です。それを除いて、今おっしゃっていただいたような新しい取り組みに話を限ると、クラブごとの差がそれほど大きく出ているわけではないように見えるのですが、その中で興味深い取り組みなどの個別事例はあったりするのでしょうか。

 「いろいろとやり始めているクラブはあるので、どれか1つを挙げるというのはちょっと難しいですし、あまりそういったことに言及できる立場でもないのですが、そのあたりで積極的なクラブはいくつかあると思います。

 例えば、この領域で昔から積極的に取り組んでいるクラブとして有名なのは川崎フロンターレで、企業だけでなく自治体や教育委員会と『算数ドリル』のアクティベーションにも取り組んでいます。また、横浜F・マリノスもパートナー企業と海外企業のマッチング等にも昔からいち早く取り組まれており、直近では『共創プロジェクト』などをやっていますね。

 あとアビスパ福岡は、いわゆるDAOやトークンを使った新しい形でのチャレンジをされています。スポーツ庁が推進している『SOIP(スポーツ・オープン・イノベーション・プラットフォーム)』というものがありますが、まさにあの発想に近いですね。クラブが持っているアセットを、いろいろな人に使ってもらう形でオープンに公開していくことで、今までやれていなかったチャレンジをして、それをマネタイズしていくという取り組みは始まりつつあります。

 もう1つこの領域でよく名前が出るクラブとしては鹿島アントラーズが挙げられます。KA41(クラブ50周年の2041年までに達成したい姿)という長期ビジョンをいち早く掲げてクラブフィロソフィを醸成しようという取り組みは非常にしたたかで、上手いなと思って見ています。メルカリがオーナーになったというのも、実は大きな意味で見ればアクティベーションの一環である、という見方もできると思っています。もともとはメインスポンサーという入り口から始まって、クラブフィロソフィを共有することで今ではそれがオーナーシップにまでつながっているという話でもありますので。

 具体的な事例をピンポイントで挙げるのは難しいのですが、新しいレベニュー創出の流れ自体は確実にきていると感じています。やれることは本当は数多くあるはずなのですが、クラブ側で自分たちの持っているアセットの整理が追いついていなかったり、ビジネスサイドから提案されても、それをクラブ側で形にできる人材がいなかったりと、ミスマッチがあってなかなか大きな火がついていない状況かなとは思います。ただ、確実にそうした方向へ流れは向いていますので、そこに対してアンテナを立て始めているクラブは徐々に増えている、という感覚です」

広島の新スタジアムが大きなシナジーを生んだ理由

――Jリーグマネジメントカップの2023年版では14位だった広島が、2024年版で首位になったことが話題になっていました。やはり新スタジアムの効果による入場料収入は非常に大きなインパクトがあったと思いますし、新スタジアムを建ててそこに挑戦していこうというクラブがかなり出てきているようですが、そこについてはいかがでしょうか。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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