モダンサッカーの最前線を知るガリアルディが解説。インテンシティ向上がもたらした「加速のゲーム」の正体
「サッカー×走り」の最前線#4
「今日の試合でプレーしなければならないとしたら、私はプロサッカー選手になれていなかっただろう」――そう冗談交じりにペップ・グアルディオラが語った理由の1つは、現役時代の自身に欠けていた走力にある。事実、彼がマンチェスター・シティの監督として10年目を戦っているプレミアリーグでも2021-22シーズンから2024-25シーズンにかけて年々、1試合平均のトップスピードとスプリント回数が右肩上がりとインテンシティは高まるばかりだ。欧州全体を見渡しても悲願のCL初優勝へとパリSGを最前線から牽引したウスマン・デンベレの爆走が脚光を浴びたように、ハイプレスからトランジションにロングカウンターまで立ち止まる暇のない現代サッカーで求められる「走り」とは?フィジカルコーチやテクニカルコーチ、そして日本代表選手らと再考する。
第4回は、アントニオ・ガリアルディに「インテンシティ向上がもたらした変化」についての論考を執筆してもらった。イタリア代表のテクニカルスタッフを長く務め、2021年夏のEURO2020制覇にも貢献した彼は、その後ユベントスなどでアンドレア・ピルロの戦術コーチ、そして24年10月に辞任するまでロベルト・マンチーニのスタッフとしてサウジアラビア代表で仕事をしており、現在は監督として独立準備中だ。サッカー戦術の歴史、その進歩の過程について造詣が深い、最前線を知る「研究者」は何を語るのか?
執筆協力:マルコ・ベアート
本稿の協力者マルコ・ベアートは、ストレングス&コンディショニングを専門とするスポーツ科学者。キエーボ・ベローナのテクニカルスタッフなどを経て、現在は英サフォーク大学で教鞭を取る。
近年、サッカーは多くの側面において根本的な変化を経験してきた。
その中でも最も顕著で計測可能なものの1つが、フィジカル強度(インテンシティ)の増加であることは間違いない。スプリント(時速25km以上)、高強度ラン(時速20km以上)で走破される距離は、主要な全てのリーグで増加している。これは、単なる量的な変化にとどまらず、質的な変化も伴っている。より多く走るということは、単にフィジカルに優れているというだけでなく、スペースの解釈に長け、より素早く反応すること、したがってより組織的でダイナミックなコレクティブの中に組み込まれ機能する能力があることも意味する。
前提として無視できないのはAPTの増加
今や、インテンシティの高さはトップレベルでプレーする上での原則となっており、それをどのレベルに設定するかは、フィジカルトレーニングの内容はもちろん、チームの戦術構造やメンタルのマネジメントにも直接的な影響を与える。あらゆるラン、あらゆるスプリントはそれぞれに意味を持ち、戦術的な文脈に組み込まれ、その中で特定の機能を担っている。この事実は、インテンシティを単なるパラメーターとしてではなく、1つの戦術カテゴリーとして見るべき理由を説明している。
近年のトラッキングデータ分析は、1つの明確な結果を示している。2016年以降、主要リーグにおける高強度ランとスプリントの距離は著しく伸びている。平均して、高強度ランは20~25%、スプリントは15~20%増加しているのだ。しかしこのデータは、プレー時間(APT=アクチュアルプレーイングタイム)との関連で読み取り解釈する必要がある。増加の理由の一端は、プレー時間自体が伸びたことにあるからだ。例えば2022年のW杯では、各ハーフで10分を超えるアディショナルタイムが取られる例があった。多くの試合では60分を超えるATPが記録されており、時には65分を上回ることすらある。
プレー時間の増加が、高強度ランやスプリントを含む全体の運動量の増加につながるのは必然だ。平均インテンシティ(つまり1分あたりの走行距離)が安定していたとしても、トータルの負荷は大きく上昇している。より多くのアクション、より多くの意思決定、より多くのラン、より多くのストレス。これは、トレーニング強度の管理、ケガのリスク、ターンオーバーによる出場時間管理、そして何よりチームのプレースタイルと戦術に明確な影響を与えずにはいない。
トレーニングメソッドの進化
インテンシティの高まりは、複数の要因に根ざしている。
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