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実は英語圏でも普及している「ピン留め=pinning」、守備者に迫る“マーカー”と“ボール”との二者択一

2025.06.09

知ればさらにサッカーが面白くなる!
新戦術用語のすゝめ
#4

「疑似カウンター」「ジャンプ」「ピン留め」……サッカー中継や分析記事内で登場する戦術用語、実はよくわからないと感じたことはないだろうか? 戦術的概念を言語化したサッカー用語は、試合をより深く味わうことができるツールにもなる。今特集では、最近よく使われるようになった新戦術用語の意味をわかりやすく解説したい。

第4回は、スペースを争うという現代フットボールの特性を理解する上で、とても重要なコンセプトである「ピン留め」を取り上げたい。

 インターネットの英知によれば、「ピン留め」というワードを日本語で使い始めた1人は、マッチレビュアーのらいかーると氏のようだ。らいかーると氏は自身のブログで、次のようにこのワードを定義している。

 「ピン留めも漢字が正しいのかわからない。簡単に言うと、相手に守備に基準点を準備することで、他の誰かをフリーにする手法である」

 この「ピン留め」という戦術用語は徐々に認知を拡大していき、元日本代表の内田篤人氏も解説時に「ピン止め(違う漢字で表現されていた)」というワードを使用していた。このワードは現場レベルでも一般化しつつあるのだろう。

 しかし一方で、この現象は英語圏でもpinning(ピン止め/固定)として普及しているという点で「日本語だけに限定される戦術用語」とは違っている。特定の戦術的な事象を表現する上で「ピン留め」は、イメージしやすい優れたネーミングだと感じる。ここからは、英語圏における「ピン留め=pinning」の使用法を説明しながら、この戦術用語が示す背景を考察していこう。

ゾーンディフェンスの仕組みを利用した「罠」

 多くの指導者を輩出したドイツの戦術ブログ『Spielverlagerung(シュピールフェアラーゲルング)』の書き手の中で、バイエルンにまで辿り着いた俊才レネ・マリッチと並び、名を轟かせたのがアディン・オスマンベシッチだった。アメリカとボスニア・ヘルツェゴビナの国籍を持つ30歳の若手指導者はMLSでコーチとして活躍していたが、2024年にはベルギーのサークル・ブルッヘにアシスタントコーチとして引き抜かれる。彼を見出したミロン・ムスリッチ監督はボスニア・ヘルツェゴビナ出身で、2025年にはチャンピオンシップのプリマス・アーガイルへとステップアップを果たした。オスマンベシッチもムスリッチのアシスタントコーチとしてイングランドでの挑戦を選択し、FAカップではリバプール相手にジャイアントキリングを達成している。ムスリッチは来季ドイツの名門シャルケの監督就任が決まっており、優秀な右腕として彼を支えてきたオスマンベシッチの去就にも注目が集まるだろう。

 そのオスマンベシッチは2018年にマンチェスター・シティの戦術を分析した「グアルディオラはどのようにポジショナルプレーで[5-4-1]ブロックを攻略するのか」という記事において次のように「ピン留め」という概念を説明している。

 「ピン留めをするという行為は、ポゼッションにおいて最も基本的であり、価値のあるツールだ」

……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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