対応力モンスターの新たな発見。「最近凄く気づいたのは『サッカーって結構簡単なプレーでいい時もあるんだな』って(笑)」:柏レイソル・小泉佳穂インタビュー後編

「対応力」とは何か#8
サッカー戦術の高度化に伴い、攻守の可変システム、ビルドアップvsハイプレスの攻防など駆け引きの複雑性が増しており、ピッチ上の選手の「対応力」がより問われる状況になってきている。そもそも「対応力」とは何なのか? ピッチ上でチームの意思を統一するには何が必要なのか? そして「対応力」のある選手を育てるにはどうすれば良いのか? 様々な角度から考えてみたい。
第6~8回は、Jリーグ屈指の理論派として知られ、今季から加入した柏レイソルでもリカルド・ロドリゲス監督のイメージするサッカーを過不足なく体現し、躍動が続いている小泉佳穂にお話を伺った、「対応力」がテーマのインタビューをご紹介する。後編ではJ1第9節・ガンバ大阪戦において、本人が考えていたディテールを深掘りしてもらうことで、この人の頭の中をさらに深く覗いてみよう。
(取材日:4月18日)
プレッシングで大事なのは「体力的な負荷」と「認知的な負荷」
――今季のレイソルのリーグ戦を見ると、第9節のガンバ大阪戦(〇1-0)が一番気になる事象が多い試合だったので、ちょっとディテールを伺えればと思います。
「わかりました」
――まず、このガンバ戦のDAZNの試合前インタビューで、リカルド監督が「相手がどうやってくるかわからない」と話していました。ガンバは7節まで[4-2-3-1]を採用していて、レイソル戦の1つ前の試合に当たる第8節の(FC)町田ゼルビア戦で[4-3-1-2]に変えました。このシステム変更で、ガンバ相手の対応について考えることは増えましたか?
「考えることが増えたというよりは、このころのガンバは結構模索している時期でしたし、宇佐美(貴史)選手が出るか出ないかに左右されるところがあったので、そういった意味では相当予想しづらかったです。だから、試合が始まってから見ようとは思っていて、すぐに分かったので良かったです。実際にやってみないと体感できないことは多いので、試合前にいろいろ考えるというよりは、試合に入ってみてどうなっているかを見ることの方が大事ですかね」
――前橋育英高校時代の同期の鈴木徳真選手が出てくるかどうかは気になっていましたか?
「気になっていましたけど、出てこないでほしかったですね。いると厄介なめんどくさい選手なので(笑)。それこそそんなにメチャメチャ目立つタイプではないですけど、相手にいると嫌な選手ですよね。攻撃も守備も立ち位置とポジショニングがいいんですよ。結局こっちが取りたいスペースを埋めてくるとか、こっちが立たれると嫌なスペースに立たれるという選手なんです。
試合を見ているとボランチからボールを持って、1人剥がして前進するような選手は目立ちますけど、全部が全部そのプレーをやれるわけではないですし、そこにはあまりストレスは掛からないんです。でも、徳真がいる方がウチに体力的な消耗と、精神的な消耗、認知的な消耗という意味での負荷がより大きくなるので、『いない方がありがたいな』と思っていました。実際にいなかったので、比較的ゲームを楽に進められたところはありましたね」
――それは「なんでこんなところにいるんだよ!」みたいなイメージなんですか?
「そんな感じでもなくて、もっと地味に嫌な感じですね。『なんか走らされてんな』とか。プレッシングでも『ハメに行きたいんだけれど、この選手がここにいるから気になって、100でプレッシングを掛けられないんだよな』みたいな。プレッシングのところはそれが大事で、プレッシングのスイッチを入れたい選手に、体力的と認知的という2つの負荷をどれだけ掛けられるかで、相手のプレッシングの質を下げられるかどうかが変わってくると僕は思っています。
プレッシングに来た選手は、自分の脇に相手に立たれると、その選手へのパスコースも消さないといけないので、まっすぐ100でプレッシングに行くことができなくなるんです。そういう気になるポジションに常に立てるかどうかは相当大事なことで、徳真は常にそういうことをしてくる選手なので、相手にいたら絶対に嫌でした」
――「認知的な負荷」というフレーズは非常に面白いですね。心理学っぽくて。
「これは僕の兄がよく言うことで、僕は感覚的にはわかっていましたけど、『認知的な負荷』という言葉が一番しっくり来ていますね。これは凄く大事な要素ですけど、本当に目立たないところなので、評価されにくいんですよ。シティが本当に強かった時は、それの連続だった気がしますね。
プレッシングを掛けたくても掛からなくて、だんだん前の選手が諦め出すんです。それはボールを回され続けて疲れるという『体力的な負荷』と、プレッシングに行きたいけど、こことここが気になって、出たくても出られないという『認知的な負荷』が掛かると、それでプレッシングが掛からなくなるじゃないですか。この2つの負荷の掛け方が相当大事です。簡単に言えば『ストレス』ですよね」
「ボディーブローを打ち込むようなイメージ」を意識する
――小泉選手がスタートから左のシャドーに入っていた試合は、このガンバ戦が開幕してから初めてでしたね。これは明確に左でスタートしましたよね?
「はい。でも、そんなに深い意味はなかったというか、『渡井(理己)と景色を変えてみようか』という話が監督からあった感じですね。というのは、右サイドは結構コンビネーションができていたんですけど、左サイドは孤立することが多かったので、そういった意味で僕が左に入ったらどれだけ変わるかというところも試したかったのかなと思います。実際にそんなに変わったかどうかは、自信もないですけどね」
――思ったよりポップな理由ですね。
「そうですね。ポップだった気がします。戦術的な深い意図というよりは、右の方が人数を掛けたコンビネーションプレーが多くて、左の方が小屋松(知哉)くんの質に頼ったプレーが多かったので、そういった意味で自分たちのリズムを変えつつ、相手を混乱させる意図もあったと思います」
――ただ、開始4分ぐらいでシャドーの左右は変わりましたよね。小泉選手が右に行って、渡井選手が左に行きました。
「人がそこにいればいいので、正直左右はどっちでもいいんです。僕は両足を使えますし、渡井も上手な選手なので、左右の配置というよりは、バランスの方が大事です。守備の流れで入れ替わった時には、そのままのこともありますし、そこで変なタイミングで元に戻ったことによって混乱する方がよくないので、それだったら変わりっぱなしの方がいいと思います」
――右シャドーに変わってからは、相手の[4-3-1-2]のシステムの左のセンターバック(福岡将太)と左のサイドバック(黒川圭介)、左のボランチ(美藤倫)の三角形のちょうど真ん中ぐらいにずっといたと思うんですけど、あそこが自分のいるべき立ち位置というイメージでしょうか?
「そうですね。そのポジションを基本的には取るんですけど、その時にどのポジションの選手が一番自分のことを気にしてくるかの見極めを大事にしています。いわゆる中間ポジションやハーフスペースに立つと、相手の配置をずらすことができて、ずらせなかったら自分が受けられますし、配置をずらしていくと、相手にもひずみができて、その歪んでいる部分で空いているスペースが出てくるので、そういうポジションに立つようにしています。それこそ『認知的な負荷』を考えて、相手のボランチがギリギリ気にしたくなるようなポジションに立ったりはしますね。
それをやるとこっちのボランチに対して、相手のボランチも出づらくなって、ビルドアップをする時間的な余裕がウチの選手にできたりするので、落ち着いてボールを回したい時は、あえて相手のボランチの視界に入るようなポジションを取ったり、同じように相手のサイドハーフの足を止めるような気になるポジションを取ったり、そういう細かい調整は結構意識してやっています」
――それで相手のボランチやサイドハーフが明らかに自分を気にして、うまくプレーできないような姿を見ると楽しかったりするんですか?(笑)
……

Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!