可変プレスと前線のカバーシャドー。岡山の[3-4-2-1]ハイプレスを成り立たせる戦術のディテール

Jリーグ3バックブーム探求#3
なぜ、Jリーグに再び3バックブームが到来しているのか?日本サッカーの戦術史も振り返りつつ、3バックの伝統があるサンフレッチェ広島から、今季より本格導入した町田ゼルビアに、大木武監督が独自性を貫くロアッソ熊本まで注目クラブを参考事例に流行の理由を探求する。
第3回は、クラブ史上初となるJ1の舞台で健闘しているファジアーノ岡山の[3-4-2-1]ハイプレスを成り立たせる戦術のディテールについて分析してみたい。
昨季以上に圧倒的なJ1昇格プレーオフは記憶にない。5位で決戦の場へたどり着いた岡山は、準決勝で4位山形のホームへ乗り込み、この終盤にリーグ9連勝を飾っていた強敵を3-0で撃破。さらに決勝では、長崎に4-1で勝利して勢いに乗っていた仙台を2-0で下し、J1昇格を決めた。2試合ともにクリーンシートかつ複数得点。これほど圧倒的だったプレーオフは珍しい。
自慢のハイプレスが唸りを上げた、その勢いは今年初挑戦のJ1序盤でも止まらなかった。京都、G大阪、横浜FM、FC東京にいずれもホームで勝ち点3を挙げ、10節の広島戦ではアウェイ初勝利も果たした。
大きく2種類のハイプレス配置と1トップ2シャドーの誘導
岡山は昨季からずっと『自分たちのサッカー』をやっている。
それは即ちハイプレスだ。敵陣から激しく追い込み、高い位置でボールを奪ってショートカウンターを仕掛ける。少ない手数で背後を突くか、あるいはそこからのクロス、セットプレーで得点を狙う。すべての出発点となるハイプレスがチーム戦術の柱である一方で、ボール支配率は40%強とJ1最下位だ。昇格を果たした昨年のJ2でもそれは最も低いグループだった。
岡山はボールを持たず、非保持で敵陣へ押し込む。この振り切った『自分たちのサッカー』を貫く上で、この2季はシステムを[3-4-2-1]で固定してきた。3バックがハイラインを保ち、両ウイングバックも下がらないため、中盤と前線のスペースを広く、厚く埋めてプレッシングに行ける。これは広島と似たやり方だが、相手を押し込むことが前提の配置なので、押し込めなければ、下策として5バックにならざるを得ない。
いかに、この押し込み配置を保てるか。そこが岡山のキーポイントだ。
まずは相手ゴールキックからDFに対してプレスをかけ、脱出を許さない。ハイプレスの手順は複数持っており、例えば相手が4バックの場合は初期配置でかみ合わないので、2シャドーの江坂任、木村太哉を前に出して2枚のCBへプレスをかけ、1トップのルカオが下がってアンカーを見て、真ん中でかみ合わせるのが1つ。
他にはサイドの片上げプレスもあり、1トップのルカオが片方のCBに寄せ、反対のCBにはシャドーの1枚が縦ズレし、そのシャドーの位置にはウイングバックが縦ズレして、[4-4-2]風に変形しながらハイプレスをかみ合わせる方法も使う。そのチョイスは相手の中盤の形にもよるが、片上げプレスの場合、佐藤龍之介のような突破力のあるウイングバックを高い位置へ上げられることも大きなメリットになる。
また、配置も重要だが、もう1つ忘れてはいけないのは、1トップのカバーシャドー(背中で消すこと)だ。岡山がハイラインを敷くと言っても、オフサイドの限界があるので、3バックはハーフウェイラインあたりで止めざるを得ない。そんな中でFWが無謀なマンツーマンプレスに行けば、中盤のスペースが広大に空き、いかに藤田息吹や田部井涼らが無尽蔵のスタミナでハードワークしても埋め切れなくなる。
守備の機能性を上げるにはコンパクトさが必要だ。
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Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。