FEATURE

サッカーの普遍のセオリー「ファンダメンタル」と「対応力」の関係。育成年代でできることを考える

2025.04.21

「対応力」とは何か#1

サッカー戦術の高度化に伴い、攻守の可変システム、ビルドアップvsハイプレスの攻防など駆け引きの複雑性が増しており、ピッチ上の選手の「対応力」がより問われる状況になってきている。そもそも「対応力」とは何なのか? ピッチ上でチームの意思を統一するには何が必要なのか? そして「対応力」のある選手を育てるにはどうすれば良いのか? 様々な角度から考えてみたい。

第1回は、育成年代の指導者でもあるらいかーると氏に、サッカー普遍のセオリーである「ファンダメンタル」と「対応力」の関係から、対応力のある選手を育てることのヒントを探ってもらった。

「ファンダメンタル」とは何か?

 とあるイタリア人指導者の講習会に出た時にこのような言葉をいただいた。

 「サッカーは進化する。だから、育成年代の指導者は未来を想像して目の前の選手たちに取り組まなければならない。一方で、何十年前から変わらないサッカーのセオリーも存在している。流行りや未来だけでなく、変わらないセオリーを選手たちに伝えていくことも大事だよ」

 「ファンダメンタル」という言葉そのものは、基礎的なことを意味している。

 「サッカーにおけるファンダメンタルとは?」と聞かれた時に、このイタリア人指導者の言葉が思い浮かぶ。時代の流れとともにサッカーの戦術は円環していく中で、確かにそこには何十年も前から変わらないサッカーのセオリーが同時に存在し続けている。

 このファンダメンタルは日本人にはおなじみの言葉なのではないだろうか。

 “look around, think before, meet the ball, pass and go”と聞けば、哀愁を感じる人もいるだろう。1960年にデットマール・クラマー氏が日本に伝えた言葉の具体例となる。これらの言葉はサッカーにおける基礎として、現代でも通用する考えなのではないだろうか。

 アイコンタクト、スモールフィールド、トライアングルという言葉は元日本代表監督のハンス・オフト氏によって、1980年代から1990年代に日本へ伝わってきた考えだ。何を当たり前のことをと思うかもしれないが、それまで密かにピッチに存在していたことも、言葉にすることで一気に一般的なスキルと変貌することができる。

 もちろん、これらの言葉たちを華麗にスルーして試合に臨むことも可能だろう。ボールが来る前に考えなくなってサッカーはできるし、アイコンタクトをしなくても試合は進んでいく。ただし、これらの言葉たちを試合で実行すれば、試合の目標である勝つためのコストを下げることが可能だ。コスパという言葉が多く叫ばれる時代の中で、コストを下げてパフォーマンスを上げられる言葉たちをスルーすることは、もったいないのではないだろうか。

 つまり、ファンダメンタルとは、サッカーというスポーツのルールが大幅に変わらない限りは必要とされる基礎的な能力であり、習慣であり、知識でもある。すべてのプレーを支える土台のようなものだ。そもそもサッカーの試合は想定外のことを運んでくるものである。変わりゆく状況へ対応していくための変わらない武器が、ファンダメンタルになるのではないだろうか。

あらためて「対応力」を定義してみたい

 対応力とはそもそも何か。

 対応力があるチームだよね、と評価されるのは「万能型」と呼ばれているチームだろう。ボールを持っても強いし、ボールを持てなくても強い。どこかの局面に尖りはあれど、すべての状況に対応できる力を持つチームは対応力があると言えそうだ。

 一方で、対応力のあるチームはどの局面でもそれなりにプレーできるゆえに、落とし穴にはまることもある。他の局面の噛み合わせの方がチームに優位性を運んでくる場合があるにもかかわらず、「どの局面も正解」だと自分たちに優位性がある嚙み合わせに無理に転換する必要はない。この姿勢が時にマイナスに働くことも万能型の宿命と言えるだろう。

 万能型のチームはどのような局面でも対応できる!と言いたいところだが、現実にはこちらの想定を超えてくることがある。相手の変幻自在のビルドアップを止めることができなかったり、裏へ蹴っ飛ばす作戦に対して、ロングボールの起点、終点を止めることができなかったりすれば、事前に準備されていた計画は脆くも崩れるだろう。そんな時にどうするかも対応力と言えるのではないだろうか。……

残り:3,183文字/全文:5,071文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。

RANKING

関連記事