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セットプレー専門コーチ、ジャンニ・ビオが語る「ブームの背景」(後編): 5人交代制、スカウティング…多くの可能性が眠っている

2025.03.18

【特集】「セットプレー革命」の内実#2

ワンチャンスをモノにするフリーキックやコーナーキックなどのセットプレー。プレミアリーグでも専門コーチの存在が脚光を浴びているように、トップレベルの拮抗した試合でも「違い」を作る飛び道具”に注目が集まっている。その戦術と攻防の最新トレンドから浮かび上がる「革命」の内実とは?

まずは、『セットプレー最先端理論』(小社刊)でお馴染みのセットプレー専門コーチのパイオニア、ジャンニ(ジョバンニ)・ビオが登場。セリエAでの成功後はイングランドから声がかかり、2022-23シーズンのアントニオ・コンテ率いるトッテナムではセットプレーから19得点を記録するという大きな成果を出した後編では、具体的なトレーニングメソッドと、発展の余地が多分に残されているというセットプレーの未来について解説してもらった。

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セットプレーをどうトレーニングするか?

――具体的にはどんなエクササイズを行っていたのでしょう。

 「ピッチに出る前のミーティングで、まずビデオを使って、どういう考え方でどういう配置を取り、どのように動くかという戦略と戦術を選手たちに説明する。そしてピッチに出たら、CK、サイドからのFK、中央遠目のFK、スローインなどそれぞれの状況から、11対11の試合形式で何度かそれを繰り返し、感覚を掴んでもらうという流れだ。

 何を重視するかはその時々によるが、いずれも試合と同じ状況でプレーをリスタートする。11対11で行うのが重要なのは、これがセカンドボールへの対処を本当に鍛える唯一の方法でもあるからだ。11対0でトレーニングしても、こぼれ球やセカンドボールの状況は再現できない。しかし現実のセットプレーにおいては、セカンドボールは得点の80%を占めるほど重要な要素だ。しかもセカンドボールには再現性がまったくないので、その場その場で最適な対応を選び取る必要がある。その感覚を磨くためには、プレーを積み重ねて経験値を高めていく以外にない。また、状況を先読みして適切なポジショニングやプレー選択を行える選手を見つけることも大切だ。

 セットプレーの大きな特徴は、攻撃側が時間をコントロールできるところにある。どこにボールを蹴るかだけでなく、いつ蹴るかも決めることができる。そのため、セカンドボールに対応する選手が初期配置から移動して適切なポジションにつけるよう、タイミングをコントロールすることも可能だ。通常、セカンドボールに対応する選手はあらかじめそれに適した位置に置くことが多いが、もう1つ、最初は攻撃的なポジションを取らせて相手にマークさせ、その後に後方に戻ってポジショニングし直すという方法もある。相手がマンツーマンで守っている場合には特に、このやり方が有効だ」

――セカンドボールへの対応には、それを拾っての二次攻撃だけでなく、相手に拾われてカウンターを喫する展開を回避するという側面もありますよね。多くの人数を敵ゴール前に送り込んでいる分、予防的カバーリング、あるいはマーキングの重要性は、オープンプレーよりもさらに高いと思います。

「11対11のトレーニングが重要なのはまさにそれゆえだよ」

――『セットプレー最先端理論』の中では、セットプレーのトレーニングでもセットプレーコーチが主導するより、主導権は監督に委ねる方が望ましい、という話も出てきました。トッテナムでもトレーニングはコンテが行っていたのでしょうか。

 「アントニオは、監督がすべてについて責任を持ってコントロールすべきだという考え方の持ち主だ。もちろんセットプレーのトレーニングも彼が行っていた。監督が直接関与する以上、スタッフは基本的に口を挟むべきではない。監督から求められれば別だが、原則としてはサポート役に徹するべきだ。コンテは『ジャンニはどうして声を上げないのか』とアシスタントコーチに言っていたそうだが、これは私の中での監督に対するリスペクトの問題だ。私はあくまでセットプレーを専門とするアシスタントコーチであり、監督の権威と権限を尊重しているので、監督の前で選手に対して声を上げるようなことはしない」

ソン・フンミンとコンテ

――最終的にトッテナムでセットプレーから数多くの得点を挙げた秘訣はどこにあったのでしょう。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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