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イランの「二段構え」の策略の前に完敗…敗退で浮き彫りになった日本の課題とは。アジア杯イラン対日本戦分析

2024.02.05

森保JAPAN戦術レポート――アジアカップ編#5_準々決勝イラン戦

森保一監督が続投しリスタートを切った2023年、欧州遠征での強豪撃破をはじめ結果を残し、着実に歩みを進めてきた日本代表。そんな第2期チーム森保にとって、今回のアジアカップはチーム強化の進捗を測る格好の舞台となる。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者でありチーム森保の戦いを追い続けているらいかーると氏が、試合ごとに見えた成果と課題を分析する。

強豪イランと激突した準々決勝は主導権を握り先制するも、そこから攻勢に転じたイランの圧力に屈し逆転負け。3大会ぶりのアジア制覇はならなかった。時間の経過とともに押し込まれていく展開を打開する手立てはなかったのか内容的にも厳しいゲームとなった一戦で浮き彫りになった現チームの問題点を明らかにする。

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 ベスト8からが本番で、それまではくじ運みたいなものだという格言がある。まさにその言葉通りのような試合となった。

 日本ボールのキックオフですでにお馴染みとなっている、左サイドへの突撃で試合が始まるところだったが、放り込む役割の板倉滉のコントロールミスによって、多少の喧騒を招くこととなる。喧騒の終わりはGK鈴木彩艶へのバックパスだった。試合序盤のイランは鈴木まで追いかけ回すことはなく、日本がボールを保持する道を選ぶことを止める気はまるでなかった。

立ち上がりはイランの狙いを外し、主導権を握れていた

 イランのプレッシングの配置は[4-4-2]。ファーストラインのアプローチに少し工夫がなされており、サマン・ゴッドスは遠藤航をマークするか背中で遠藤を消すことを優先し、板倉にボールを持たれることは許容しているようだった。もう1人のサルダル・アズムンは冨安健洋にボールを持たせないように板倉方面にボールを誘導したり、CB同士のパス交換を遮断したりしていた。ただ、両者で異なるタスクなのか、持っている個性の差なのかまでは判然としなかった。

 毎熊晟矢のプチブレイクにより日本にとって右サイドがストロングポイントという雰囲気になっているが、ボール保持におけるストロングは左サイドである。気が利く守田英正や旗手怜央が苦悩を抱えながらも交通整理ができることに加え、右インサイドハーフの久保建英も左サイドに流れてくること――流行りの言葉を使えばオーバーロード、平たく言えば選手が集まってくることで生じる数的優位――で日本の左サイドは成り立っている。

 アズムンが冨安にボールを持たせずに板倉サイドに誘導すれば、自然と日本のボール保持の中心サイドは右となる。イランの狙い通りなら素晴らしいと言いたいところだが、アズムンの動きは是が非でも冨安にボールを持たせたくないというほどあからさまではなかったことから、そこまでの深い意図はなかったと解釈している。なお、イランの自陣に撤退してからの守備は基本的にノーマルだったが、ゴッドスだけは遠藤を追いかけ回すタスクを遂行しようとしていた。……

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。