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ゲームモデル作成に役立つ、現代サッカーの戦術用語解説

2019.09.02

日本でも少しずつ認知されてきている『ポジショナルプレー』や『戦術的ピリオダイゼーション』といった概念や理論だけでなく、短い言葉で状況を共有するための専門用語=戦術用語もまた日々アップデートされている。ここではゲームモデルを成立させるためのプレー原則の中や現場でも頻出する現代サッカーのキーワードを、東大ア式蹴球部でヘッドコーチを務める山口遼氏に解説してもらった。

Half Space
ハーフスペース

ハーフスペースを図示したもの

ドイツ語で「ハルブラウム」。グアルディオラのバイエルン時代に広がった概念で、ピッチを縦に5分割した時の横から2番目と4番目のレーンを指す。ピッチ中央レーンでは選択肢が多いがスペースがなく、サイドレーンではスペースはあるがゴールまでの距離が長く、スペースとしての有効性は低い。そこで、中央にもサイドにも隣接していて選択肢が多い上に、スペースにも比較的余裕のあるこのレーンを崩しの起点にすることが、現代サッカーの1つのポイントとなっている。これにより、インサイドMFに最も技術やビジョンに優れた選手を配置したり、SBをハーフスペースに絞らせることでリスクマネージメントを行わせる(=偽SB)などのトレンドが生まれることとなった。

Cover Shadow
カバーシャドー

カバーシャドウを図示したもの

守備時に、相手の背後からマークにつくのではなく、相手の前に立ちながら背中でパスコースを制限する守備方法のこと。敵を背中側に置くことになるので、パスコースの制限はより難しくなるが、これにより「スペース」と「プレーの選択肢」を同時に制限できるので、相手は圧力を感じ、ミスを誘発しやすくなる。また、「ボール」→「味方」→「相手」の順で守備のポジショニングが決まるゾーンディフェンスがほとんどの守備戦術の根底にある現代サッカーでは、味方との距離感を保ちつつ選択肢を制限できるカバーシャドーは必須のアクションの1つであり、攻撃側は逆に、3人目の関わりやオフ・ザ・ボールの動きなどによってカバーシャドーを無効化できるかどうかが焦点になる。

Layoff
レイオフ

レイオフを図示したもの

縦パスに対して近くにサポートする選手を配置し、受けた選手がワンタッチで「落とし」を行うことによって前向きの選手を作る行為。現代サッカーの崩しの局面においては、「ライン間で前を向く」ことが重要視されているが、スペースが即座に制限されるライン間では時間的制約が厳しいため、独力でのターンは技術的な難易度が高い。しかし、レイオフは体の向いている方向にボールを落とすだけなので、独力でのターンに比べて技術的な負荷が低くなる上にスピーディな展開ができるため、戦術的な浸透度が不完全なチーム(2016-17シーズンのマンチェスター・シティなど)や、個のクオリティに関してはトップレベルではないチーム(サッリ時代のナポリなど)が採用するケースが多い。

Overload
オーバーロード

オーバーロードを図示したもの

直訳すると「過負荷」であり、攻撃の際にボール周辺(特にサイドの2レーン)に人数を集めて局所的数的優位を作り出す戦術のこと。活用するチームのゲームモデルとしては、サッリ時代のナポリのように、ポジショナルプレーを志向するチームが逆サイドのウイングのアイソレーション(孤立させて1対1を作る)と組み合わせるパターンや、アトレティコ・マドリーやRBライプツィヒのような守備に重きを置くチームが、密集を生かしたネガティブトランジション時のゲーゲンプレッシングに活用するパターンなどが挙げられる。ただしその密集を突破されると広いスペースを相手に与えるリスクが存在し、ザック時代の日本代表やベンゲル時代のアーセナルなどではたびたびこのリスクが顕在化していた。

Inverted fullback / false 9
偽SB/偽9番

偽9番および偽CBの図示

偽SBとは、攻撃時にSBに中盤に絞らせたり、CBの位置を取らせたりすることで、ハーフスペースを攻撃およびネガティブトランジション時に占有し、ボール循環の円滑化とリスクマネージメントを両立させる戦術である。一方、偽9番とは、ペップ・バルサの時のメッシに代表される(近年ではフィルミーノやアグエロなど)ように、CFの選手を攻撃時に1列下げることで中盤の数的優位を確保する戦術で、幅と深みを確保するウイングとの併用が必須となる。現代サッカーでは、ゲームモデル遂行のために攻守で複数のシステムや配置を使い分けたり、1人の選手に複数の役割を求めることが一般的になってきているため、このような既存の役割からは逸脱したポジションが生まれてきている。

Photo: Getty Images

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戦術

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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