「フリアン・アルバレス法」という理解だけでは正しくない。日本人選手のキャリアパスをも左右するFIFA移籍規則改正=新RSTPを解説(前編)
【特集】 世界は「日常」になった――。変化する日本人選手のキャリアパス#4
2023年のU-17W杯ラウンド16、スペイン戦のスターティングイレブンのうち、4人がすでに海外でプレーしていることをご存知だろうか?佐藤龍之介はFC東京を経てスペイン1部のバレンシアへ、名和田我空はガンバ大阪からベルギー1部のシャルルロワへ。小杉啓太は湘南ベルマーレU-18から直接スウェーデン1部のユールゴーデンに渡り、ドイツ1部のフランクフルトへ飛躍した。吉永夢希も高卒でベルギー1部のゲンクに加入している。もはや珍しいものではなくなりつつある、早期のプロ契約や海外挑戦。日本人選手のキャリアパスが大きく変わり始めている今、これからどのようにその将来を設計していくべきなのか。そして、そこにどう関わるべきか。選手、クラブ、市場、それぞれの視点から、変化の現在地を考えてみたい。
第4&5回は、来年1月から施行されるFIFA移籍規則改正=新RSTP(Regulations on the Status and Transfer of Players)を、CAS(スポーツ仲裁裁判所)仲裁人 、FIFPRO(国際プロサッカー選手会)本部理事も務める山崎卓也弁護士が前後編に分けて解説。今夏の移籍市場閉幕直後には「フリアン・アルバレス法」として一部で報じられたが、特定の選手にとどまらないどころか日本人選手のキャリアパスも左右するであろう、その歴史的な意義とは?
2024年10月4日に欧州司法裁判所が下したいわゆるディアラ判決について、筆者が本誌で『移籍金で「稼ぐ」時代の終焉』と題して解説してから、約2年が経過した。その間、国際サッカー界は、まさにこの判決が投げかけた問いに対する答えを探す作業を続けてきたと言える。そして2026年6月10日、FIFA理事会ビューローは、FIFAの移籍規則であるRSTP(Regulations on the Status and Transfer of Players/選手の地位と移籍に関する規則)の新版を承認し、それが2027年1月1日から施行されることになった。
一部報道では、この改正を「フリアン・アルバレス法」などと呼ぶ向きもあるが、その中身は、特定の選手のケースに対応するといった次元のものではなく、2001年の現行の移籍制度の導入以来、最大規模となる移籍制度の総合的な見直しである。そこにはディアラ判決の判示内容が色濃く反映されているばかりでなく、同時に発表されたFIFAとFIFPRO(国際プロサッカー選手会)との歴史的合意、すなわち筆者の別稿(『北中米W杯開催の裏で追い込まれていたFIFA。FIFPROとの歴史的合意「パートナー型ガバナンス」が踏み出す脱・過密日程への第一歩』)で解説した「パートナー型ガバナンス」の考え方が、初めて具体的なルールの形で結実したものでもある。
では、今回の改正によって、移籍金で「稼ぐ」時代は本当に終焉に向かうのか。そしてそれは、早期のプロ契約や海外挑戦が当たり前となりつつある日本人選手のキャリアにどのような変化をもたらすのか。以下、専門的な論点は極力省きながら、解説することとしたい(※)。
※なお筆者は、FIFPROの本部理事を務めている立場であり、FIFPROは今回の新RSTPの合意当事者でもあるので、本稿の記載は立場上バイアスのかかったものにならざるを得ない。また、立場上、交渉の詳細な内容について記載することはできないが、可能な限り客観的な記載を心がけ、特に日本サッカー界への影響については、様々な観点から読者に考えていただけるような記述を心がけることとしたい。
形式は同じ「FIFA規則」、しかしその中身は歴史的
まず押さえておくべきは、今回の新RSTPが持つ歴史的な意義である。
形式面だけを見れば、新RSTPはこれまでと同じく、FIFAの機関が承認した「FIFAの規則」である。しかし、その成り立ちはまったく異なる。新RSTPの第1条には、この規則が被用者の代表(選手とその選手会)と使用者の代表(クラブとリーグ)との共同の合意を反映したものであり、FIFAの主導の下での社会的対話(Social Dialogue)のプロセスを通じて作られたものであること、そして(代表チームへの選手の招集に関する附属書1を除き)FIFAは今後、被用者、使用者、FIFAの三者の合意なくしてこの規則を改正しない旨が明記されたのである。実際、今回の新RSTPは、FIFPRO(選手側)と、EFC(European Football Clubs/欧州クラブ協会)、WLA(World Leagues Association/世界リーグ協会)(使用者側)との長期にわたる交渉を経て合意されたものである。2001年以来、関係者への諮問は行われてきたものの、規範の根拠はあくまでFIFA自身の規則制定権限にあった移籍規則が、初めて労使合意という形で作られたことになる。
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Profile
山崎 卓也
1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)本部理事、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。
