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なぜセリエAでは監督が次々と替わるのか?「プロジェクト」を壊す監督とSDのエゴ

2026.10.24

CALCIOおもてうら#78

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、例年にないペースで増加している監督交代に注目。クラブの中長期的な「プロジェクト」は、なぜ簡単に覆されてしまうのか。フィオレンティーナ、パルマ、ボローニャ、ベネツィアの事例を検証し、コモのセスク・ファブレガス監督が提起した「監督とSDのエゴ」という問題から、その構造的な原因を探る。

 監督の首を簡単にすげ替えることでは定評のあるセリエAだが、今シーズンは例年になく早期解任が多い。現在まで7節を消化した時点ですでに、フィオレンティーナ、ボローニャ、パルマ、ベネツィアの4クラブが監督交代に踏み切っているのだ。

 毎シーズン、全体の半数前後のクラブが新しい指揮官を迎える「監督シャッフル」が通例となっている上に、少なくとも5、6クラブ、多い時は7、8クラブで途中解任が発生するのが常とはいえ、その多くは11月以降、ある程度シーズンの流れが見えてきたところで行なわれるのが普通だ。過去5シーズンを見ても、第7節までに監督が替わったケースは全部で4つしかない。ここまで立て続けの早期解任は異例と言っていい。

再建を託されたパラティチSD。大型補強はなぜ監督交代を招いたのか

 もちろん、クラブごとに事情は異なっている。開幕からたった3試合で新任のファビオ・グロッソを解任し、昨シーズン途中就任で指揮を執ったパオロ・バノーリを呼び戻したフィオレンティーナは、その3試合で3連敗(1得点9失点)した後、補強とチーム編成を巡ってスポーツダイレクター(SD)のファビオ・パラティチとグロッソが激しく対立したことが、解任の直接的な引き金になったと伝えられている。

 フィオレンティーナが昨シーズン、ステーファノ・ピオーリ監督の下で深刻な不振に陥って降格圏に沈み、後任のバノーリの下でようやく春先にそこから脱出、15位という不本意な成績に終わったことは周知の通り。今年1月にはオーナーのロッコ・コンミッソの死去という不幸にも直面し、息子のジョセフが会長の座を引き継いでオーナーシップを維持していくことになった。

 そうした混乱を収束してチームの体制を再構築する中心人物として招聘され、今年2月からSDの座に就いたのが、ユベントス、トッテナムでSDを務めてきたパラティチだった。全権を握ってチーム編成・強化に臨む初めての機会となった今夏、パラティチは残留の功労者だったパオロ・バノーリとの契約を更新せず、後任に昨季サッスオーロを率いて能動的な[4-3-3]を展開、11位に導いたグロッソを監督に据えることを選ぶ。同時に、1億ユーロを大きく上回る資金を投じてチームのほぼ2/3を入れ替える大型補強を敢行した。

 その補強は、レアル・マドリーからフランコ・マスタントゥオーノをレンタルしたのをはじめ、アルトゥーロ・アッタ、イナオ・ウライといった移籍市場で評判の高かったタレントを競合に勝って獲得するなど、一見すると派手で興味深いものだった。しかし開幕を迎えてみると、グロッソ新監督のチーム構想とは必ずしも噛み合っていなかったことが見えてくる。[4-3-3]には不可欠なウイングの補強が、移籍期限直前になってばたばたと決まったのは象徴的だ。

 それでもなお、最終的な陣容が監督の要望を満たすものにならなかったことが、解任の引き金となった「激しい対立」が起こった理由だと見られている。結果的に、新監督を迎えた上にそれだけの大型補強を行ったにもかかわらず、そのミスマッチが早期解任につながったのだとしたら、そのすべてを取り仕切ったパラティチSDの責任が小さくないことは明らかだ。その後任に招聘したのが、一度は切った、そしてグロッソとはまったくタイプの異なるサッカーを奉じるバノーリだというのだからなおさらである。

「監督をクラブの成長の構造的要素にする」。クエスタ招聘の理念はどこへ消えたのか

 クラブの補強戦略と監督の要請のミスマッチが解任の原因となったのは、パルマも同じ。解任時のニュースリリースには「クラブと監督との間で協議した結果、スポーツ面のプロジェクトを発展させていく上での前提条件がもはや崩れてしまったという認識で一致した」という文言が並んでいる。報道などから読み取れる経緯は次のようなものだ。

 昨シーズンは残留という最低目標を達成するため、目先の結果に焦点を合わせた受動的な[5-4-1]ローブロックで戦ったカルロス・クエスタだが、今シーズンはより能動的かつ攻撃的なサッカーをするべく、プレシーズンキャンプから[4-3-3]への移行を進めていた。しかしクラブが行った補強は、GK鈴木彩艶、CBアレッサンドロ・チルカーティ、CFマテオ・ペッレグリーノというセンターラインを放出しながら、その穴埋めも不十分、しかも監督が望んだウイングは獲得できずじまいというものだった。結果としてクエスタは、開幕戦1試合だけで[4-3-3]を棚上げし、昨シーズンと同じ[3-4-2-1]への移行を決断せざるを得ず、それがクラブとの間に溝を生んで監督交代に至った。

 パルマのケースについて言えるのは、これがクエスタにとって以上に、当時29歳の若手監督を抜擢したフェデリコ・ケルビーニCEOにとって大きな敗北であるということ。なにしろ、1年前のクエスタ招聘時には、こんな大見得を切っていたのだ。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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