【バルディ分析】ボール保持よりも前進のスピード——RB大宮が体現するレッドブル流の攻撃原則
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#21
RB大宮アルディージャ(前編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はロベルト・マンチーニのイタリア代表でチーフアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第21&22回は、レッドブルの哲学の下で新たなチーム作りを進めるRB大宮アルディージャ。ナルシス・ペラッチ監督率いる新チームに色濃く表れているのは、縦へのスピードとアグレッシブなプレッシングを軸としたレッドブル流のゲームモデルだ。ボールを保持して試合を支配するのではなく、前方への展開と即時奪回によって攻撃を加速させる。その戦術的な強みと、組織的な守備を崩す上での課題を、局面ごとに読み解いていく。(本文中の数字は10月7日の取材時点)。
レッドブルの哲学を体現する、縦志向のフットボール
――Jリーグもヨーロッパと同じ秋春制に変更になりました。開幕から1カ月以上が過ぎてしまいましたが、今シーズンの第一弾は、J2のRB大宮アルディージャです。レッドブルグループ(RBグループ)傘下に入ってから、百年構想リーグを間に挟んで実質2.5シーズン目ということになりますが、レッドブルが選んで送り込んだ監督の下で、レッドブルのゲームモデルを本格導入して戦うという意味では、これが1年目という理解でいいのではないかと思います。
「実際に試合を見ても、これまで見てきた日本サッカーの典型的なスタイルとは明らかに異なる、独自のアイデンティティを築こうとしていることが見て取れます。監督のナルシス・ペラッチはスペイン人ですが、スペイン3部で監督キャリアをスタートした後、主にイングランド2部で助監督として仕事をしてきた38歳の若い指導者です。RBグループとのつながりがどういうものかはわかりませんが、サッカーそのものは非常に縦への意識が強く、アグレッシブなプレッシングも含めて、レッドブルの哲学を反映したインテンシティの高いスタイルです。
端的に言えば、ボール保持を通してではなく、縦のスピードとアグレッシブなデュエルを通じてゲームを支配しようとするサッカーです。攻撃の組み立ては後方からのビルドアップが主体ですが、それもポゼッションによる押し上げではなく、あくまで前方に展開して攻撃を加速するための時間とスペースを作り出すことが狙いです。ボールは横にではなく縦に動く。そしてボールを失ったらすぐさまゲーゲンプレッシングに転じて即時奪回を狙う」
――(取材時点の)第9節を終えたJ2では、4勝5分、17得点8失点、勝ち点17で首位から3ポイント差の4位につけています。少しデータを見てみましたが、ボール保持率56.4%はサガン鳥栖と並んでリーグ1位、1試合平均得点は1.9で3位タイ、1試合平均チャンスクリエイト数13.7は2位、1試合平均XGは1.6で5位タイという感じでした。結果だけでなく内容的にも昇格を争うレベルにあるチームと言って良さそうです。J2のチームはこれが初めてですが、これまで見てきたJ1と比べてレベルの差は感じますか。
「私が見たのは直近2試合(宮崎戦、甲府戦)と開幕4試合目の湘南戦の3試合ですが、インテンシティ、テクニック、プレーの速さという点では、レベルがやや落ちる印象はありました。とはいえ、どのチームも戦術的には良く組織されており、試合のレベルそのものは決して低くはありません。ただ、大宮のようにプレッシングと即時奪回にプレーの基盤を置いているチームにとっては、対戦相手の技術レベルが高くなければ、この点が有利になるという側面があることは確かです。でも例えばイタリアのセリエAとセリエBの間にあるような、ものすごく大きなレベルの差があるかと言えば、少なくとも私にはそうは見えませんでした」
――『トランスファーマルクト』でスカッドの市場価値を見てみると、大宮は1120万ユーロでJ2トップですが、2位仙台の1093万ユーロ、3位磐田の1028万ユーロと比べても僅差です。RBグループ自体、資金を投下して圧倒的な戦力差をつけて最短距離でJ1に昇格しようという戦略は採っていないようですね。むしろ何年かかけてチームに明確なアイデンティティを与え、戦術的にも戦力的にも着実に積み上げていこうとしているように見えます。
「現時点について言えば、チームに絶対的なクオリティを与えているのは、前線のブラジル人2人です。ただこのチームの強さは彼らのクオリティそのものというよりは、アグレッシブでインテンシティの高いスタイルの上にそれが乗っていることにあるように思います。プラスαの優位性を付け加えている」
――興味深いのは、スタメンにはそれほどでもありませんが、スカッドの中には17~20歳の若手がたくさんいて、出場機会もそれなりに与えられているところでしょうか。日本でもイタリアでもまだ一般的ではないアプローチですが、質の高い若手を輩出して、おそらく売却することで利益を挙げクラブとしても成長していくという、プレーヤートレーディングを積極的に組み込んだ戦略を採用しているように見えます。
「RBグループに共通する戦略ですね。その意味では現時点で2部リーグにいるという状況も悪くないかもしれません。自分に合ったレベルで出場機会を得て、経験を重ねながら成長することがしやすいので。いずれにしても、17~18歳で大人のサッカー、もっとテンポやスピードが速くフィジカルコンタクトも激しいサッカーに向き合えるというのは、成長にとって非常に有益です」
チーム戦術に適したCBペア、攻守をつなぐキーマンは加藤玄
――スタメンというかレギュラーの顔ぶれは、すでにかなり固まっているように見えます。
「はい。システムはオーソドックスな[4-3-3]。GKはオーストラリア人のグローバー、最終ラインは右から関口、尾崎、西尾、加藤聖または木寺、中盤はアンカーの加藤玄と左インサイドハーフの豊川がほぼ固定で、右には中山かエドワードが主に使われています。前線は左からカプリーニ、カルリーニョスという2人のブラジル人、そして泉という構成でした。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
