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韓国代表の元スペイン代表監督、ロベルト・モレノの“動的ストラクチャー”論「選手が無秩序を発揮するために秩序を私が用意する」【前編】

2026.09.19

サッカーを笑え #75

北中米W杯のグループステージ敗退とホン・ミョンボ代表監督の辞任から2カ月を経て、韓国サッカー協会は後任にロベルト・モレノを指名。国際Aマッチ計6試合が行われる1127日まで、という短期契約を結んだ(評価次第で来年1月開幕のアジアカップまで延長)。2011年からルイス・エンリケ監督(現パリ・サンジェルマン)の右腕としてローマ、セルタ、バルセロナ、スペイン代表で従事し、2019311月には同代表監督として9試合(72分)を指揮。その後モナコ、グラナダ、ソチを率いてきた49歳のスペイン人は何者なのか。前編では「サッカーは複雑系で正解がない」と言うモレノの人と戦術に迫る。

 結論から言うと、ロベルト・モレノは韓国代表に大改革をもたらすことになるだろう。というのも、彼のやりたいサッカーとW杯でやっていたことが「正反対」と言っていいほど違うからだ。果たして年内のフレンドリーマッチ6試合だけの短期政権で、そんな大改革ができるのか? 改革が大きいほど当初は結果が出にくくなるが、「史上最高のメンバー」でグループステージ敗退という大ショックにナーバスになっている国民が長い目で見ることができるのか? 中途半端な成功はなく、大成功か大失敗しかないような気がしている。スペイン代表でもグラナダでも同じことをやろうとして結果は成功と失敗に分かれた。やりたいサッカーが優先するので、それに合わせて選手を自由に選べる代表監督の方がクラブ監督よりも向いている。

静的ストラクチャー、動的ストラクチャーという考え方

 まず、ロベルト・モレノがどんなサッカーをする監督なのかを見てみる。精力的にインタビューを受けたり講師を買って出るタイプの監督で、発言や代表とクラブチームでやっていたサッカーの内容をまとめてみた。モレノは発信に意欲的で、戦術を若い後輩やメディア、ファンにもわかってもらいたいタイプの、饒舌な戦術家という意味で私が会見を見聞きした範囲ではウナイ・エメリ(現アストンビラ)に似ている。すべての監督はコミュニケーション能力抜群でコミュニケーション能力の低い監督というのは形容矛盾なのだが、ベンチ外のコミュニケーションには興味を持たない者もいる。その代表がジューレン・ロペテギ(現カタール代表)である。

ロベルト・モレノの特徴
(発言からピックアップ。木村の解釈も含む)

■フィロソフィー

・我われは全員サバイバーだ(自分が生き残るためには何でもする)
・絶対的な善人なんていない。文脈によって人は変わる
・サバイバーでエゴイストなのでチームの輪を維持するのは難しい
・選手経験はない。「名選手は名監督ならず」。名選手の知識は説明できない、教えられない知識である
・サッカーは複雑系である。よって唯一絶対の正解はないし、ある状況で通用したものが別の状況では通用しない
・複雑系なので、監督がコントロールするのは不可能。複雑なものを簡略化するのが成功のカギ
・だから迷いがあって当然。迷いや弱みを見せた監督は死ぬ
・選手は監督の弱みを見抜くエキスパートである

■エピソード

・ルイス・エンリケにアナリストとして迎え入れられた時、銀行員だった
・ルイス・エンリケの代理監督を務めたが、本人復帰後は喧嘩別れしたまま(何があったかわからない)

■チーム戦術

・ボールポゼッションをする
・短い距離感(10~15m)のグラウンダーのパスで前進する
・短い距離感を保つことでボールロスト時に効果的なプレスが可能(攻守は一体化している)

・静的ストラクチャー(いわゆるフォーメーション)と動的ストラクチャー(プレー時のバランスの取れた合理的な配置)という考え方をする
・ストラクチャーは属人的ではなく属地的。誰かは重要ではなく、誰かがポジショニングをしていることが重要
・ストラクチャー内での顔ぶれはフレキシブルであること。ポジションチェンジは推奨される。いろんな選手が顔を出すことで相手は混乱する

・静的ストラクチャーは[4-3-3](ワンボランチ)
・動的ストラクチャー(攻撃)は[3-4-3]
・ボール出しは数的優位(例:相手2人に対し3人)でフリーマンを探しながら
・プレスが激しければCBやSBからのロングキックで裏を狙う
・動的ストラクチャー(守備)は[4-4-2](ボールに遠い方のFWが1列下がる)

・攻守のトランジション:ロスト時の対応は→ボールの周囲の選手はプレス、遠い選手はサイドチェンジのリスクを意識しつつ下がって内に絞る→奪い返せばカウンターを狙う→カウンターが無理ならポゼッションをして逆サイドを突く(遅攻への切り替え)
→奪い返せない場合はカウンターの危機をなくしてミドルブロックを組む(ハイラインにこだわらない)

■個人戦術

・ボールホルダーは動いて相手を引き付けてからパスを出す
・ボール保持者(味方)の前、横、後ろにパスコースを作る
・同一レーンを占めないこと。斜めの立ち位置と半身の姿勢を意識
・ストラクチャーを崩してもいい。自由が必要な選手はいる。ストラクチャーやオートマティズムが必要な選手もいる(こちらの方が多い)
・動的ストラクチャーにより「ここには○○がいるはずだ」と推測できるので顔を上げる手間を省き、スムーズかつスピーディーなプレーが可能に

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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