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「フルボなカルチョ」が変わり始めた。セリエAを速くする“時間稼ぎ禁止”とVAR運用見直し、その先にある戦術革命

2026.09.11

CALCIOおもてうら#75

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、今シーズンからセリエAに導入された“時間稼ぎ禁止”ルールと、VAR運用基準の見直し。その効果は、わずか開幕3節にして驚くほど明確に表れている。アクチュアルプレーイングタイム(APT)は一気に3分半も伸び、0-0の試合はゼロ、1試合平均得点も大幅に増加。しかも、その変化はピッチ内の戦術にまで及んでいる。これまで「フルボ(賢い)」とされてきた時間稼ぎやファウル、抗議といった振る舞いの合理性が崩れ、ピッチ上で「得をする」選択そのものが変わり始めているのだ。ルール変更の先にあるセリエAの「戦術革命」を考察する。

 今シーズンから導入された時間稼ぎ禁止ルールをきっかけに、セリエAに突然の「革命」が起こり始めている。

「5秒ルール」が変えたセリエA。APTが3分半伸びたインパクト

 開幕から3節を消化した現時点で、昨シーズンは平均54分10秒と5大リーグで最も短かく、しかも過去10年にわたって減り続けてきたアクチュアルプレーイングタイム(APT=実効プレー時間)が、平均57分43秒と一気に3分半(約6.6%)も増えているのだ。さらに、ここまで0-0で終わった試合は1つもなく、1試合平均得点は昨シーズンの2.17から2.73へと0.56得点(約26%)も増加している。

 それだけではない。ここまでの30試合で与えられたPKはまだゼロ、VARによるオンフィールドレビュー(OFR)もゼロ、退場も抗議による1件だけと、審判による試合への介入も大きく減っている。おかげさまで、セリエAとは思えないほどのハイペースでさくさくと進み、スペクタクルな攻防が展開する試合が一気に増えた感がある。

 きっかけとなったルール変更は、今年2月のIFAB(国際サッカー評議会)で承認され、北中米W杯で先行実施されたもの。従来GKのプレー(手でのボール保持、ゴールキック)だけに適用されていた、いわゆる「5秒ルール」によるカウントダウンをスローインにも適用するのに加えて、選手交代は背番号ボード掲出から10秒以内に実施し、遅れた場合交代選手は試合再開後1分が経過した後にプレーが止まるまではピッチ内に入れない、また負傷によって試合が中断した場合も、当該選手は少なくとも1分間が経過した後に主審が許可するまでピッチ外に留まる、という2点が新たに追加されている。導入の目的は「試合の分断と時間損失を減らすこと」とされているが、ことセリエAにおいてその効果はてきめんだった。

 そもそも、昨シーズンまでのセリエAにおけるAPTの低さは、かなり深刻なものだった。総プレー時間に対するAPTの比率は、16-17の59.9%から昨シーズン(25-26)には55.3%とこの10年で最低の水準まで低下していた。その理由は明白だった。1つは、ファウルの笛そのものが多いこと。1試合平均25.9ファウルは、CLの22.4と比べて約16%、プレミアリーグの21.7より19%も多い。しかも笛を吹いてから再開するまでの平均時間も、CLの22秒に対して27秒。1回5秒の差でも、25回重なれば2分以上の違いになる。

 この遅さをもたらしていた要因は、ゴールキックやスローインの遅延や負傷によるメディカルスタッフの介入、交代時のゆっくり歩いての退出、さらにはファウル後の抗議の多さといった、典型的な「時間稼ぎ」。今回のルール変更は、まさにそこにクリティカルヒットした格好である。

 実際に試合を見ていても、昨シーズンまでのように、しょっちゅうプレーが止まり、そのたびに時間稼ぎが繰り返されるという風景はすっかり消え去った。ファウルを受けた選手は(比較的)すぐに起き上がるし、少し倒れたままでも、メディカルスタッフがピッチに入ろうとするや選手がそれを制止して起き上がる場面も一度ならず見られた。交代する選手もゆっくり歩かず、小走りするかピッチの反対側から速やかに外に出るようになった。第1節のフロジノーネ対ユベントスでは、フロジノーネのGKロレンツォ・パルミサーニがゴールキックを遅らせ、5秒のカウントダウン後ユベントスにCKが与えられたが、それ以降同じケースは一度も起こっていない。

VARを主役にした「モビオーラ」の国に起きた変化

 そしてもう1つ、APTの短さに大きく影響を及ぼしていたのは、VARの介入の多さだった。

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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