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「戦う」だけでは、サッカーは面白くない。大分・清武弘嗣が語る「10番」の技術と、軽視されつつある“感じる力”

2026.09.10

トリニータ流離譚 第38回

J3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第38回は、清武弘嗣のロングインタビュー。大分トリニータへの復帰から2年。引退も考えた清武は、なぜもう一度このクラブでプレーすることを選んだのか。戦うことや走ることが強調される現代において、「10番」の価値をどう考えているのか。軽視されつつある“感じる力”と、サッカーの本質について聞いた。

(取材日:2026年8月25日)

「ヨモさんを勝たせてあげたい」。大分に残った理由

――今シーズンも大分トリニータでプレーすると決めた時の思いを聞かせていただけますか。

 「昨シーズン終了後には引退も考えましたし、他のチームでサッカーする選択肢も考えました。トリニータから契約延長のオファーをもらって自分の気持ちに正直に向き合った時に、ここでプレーするかどうか、最初は半々くらいだったんです。だけど、自分が故郷のクラブに帰ってきた意味を考えたのと、一番は僕、ヨモさん(四方田修平監督)が好きなんです。だからヨモさんを勝たせてあげたいなっていう気持ちが強くて、大分に残ることを決めました」

――四方田監督のどういうところが好きなんですか。

 「なによりも、人としてですね。僕が今までいろんな監督さんとやってきた中で、戦術の引き出しがたくさんある人もいれば、戦術にはそこまでこだわりのない人もいたけど、僕は監督って、人間力とか人の良さとかいった、人としての魅力が7割、8割を占めると思うんです。ヨモさんにはそれを感じる。だからこの人のために力を使いたいなと思えたことが、一番の決め手になりました」

――四方田監督も清武選手に厚い信頼を寄せているようですね。「キヨから『監督、もっと笑顔で!』って言われた」と笑っていました。

 「監督って孤独だと思うし、百年構想リーグはなかなかチームがうまく行かない中で、相当なプレッシャーがあったはずです。クラブの期待に応えるためにもチームを変えなくてはならないという思いが強かったと思います。やっぱり勝てないと力が入ってしまうでしょうしね。僕はもっと気楽にやってもらいたいなと思うんですけど」

「僕は、ただ普通にサッカーをしている」。清武弘嗣を作った“感覚”

――清武選手ご自身のプレーについて教えてください。ワンプレーを繰り出す時に、やはり選択肢は多く持ちながら動いているんですか。

 「自分のポジショニングとある程度の周りの状況を見て動いてはいますけど、結構感覚に近いものがあると思います」

――その「感覚に近いもの」は、育成年代の頃から培ってきたものなんでしょうか。

 「サッカーって、やっぱりボールをたくさん触ってなんぼだと思うし、それがサッカーの楽しさですよね。昨今はJリーグでも走ったり戦ったりといった部分にフォーカスされる傾向が強いですけど、僕は正直、そのことには納得できていないんです。だってサッカーはもともとそういうものが大前提となるスポーツなので、わざわざ『まずは戦うとか走るとかを大事にしよう』なんて言うまでのことではないと思うから。そういったものが大前提としてある中で、ボールを触ったりサポートしたり相手をいなしたり、それでパスしてゴールして、というのが基本的なサッカー。その過程で普通に球際での競り合いがあるし、裏に抜けたりする時にも走ることがある。だからわざわざフォーカスすることではないと思っているんですよね。

 僕がやっているのは、ただ純粋に、普通にサッカーをしているという感じなんです。そういう意味で『ザ・サッカー選手』ですよね。ボールを触って、頭を使って相手の逆を取って、パスを出して、シュートして、クロスを上げて。それを僕は、小さい頃からずっとやってきていて、それがそのまま今も続いているという感覚ですね」

――先日、ご自身のSNSで「これからも変えずに」という趣旨の言葉を発信されていましたが、その真意は。

 「僕は最近はいつも、後半途中からピッチに出るので、自分がやるべきことはゲームを落ち着かせたり、ビハインドだったら点を取りに行ったり、リードしていればゲームの閉めに入ったりという役割になりますよね。そういう自分の役割を変えないという意味です。チームとして今、追求している『湧き上がる』『球際で負けない』『走力』といったことはもちろんブレずにやりますけど、その中で自分の個性は変えない、ということですね」

――試合の流れももちろんですが、相手の戦い方や味方の選手のキャラクターによっても求められることは変わってくるのでは。

 「もちろんスコアの動きによっては僕が出ないこともあるし、試合の状況によって違ってきます。でも、味方の選手の誰が出ているかというところは、あまり気にしていないですね。僕はあまり『この人は合わないな』という選手がいないので。だから、やることも別に変えないです。ただ単純にその人に合わせてあげるだけ。難しく見えるのかもしれないけど、僕がやっていることって、相当単純ですよ。サッカーの基本を当たり前にやっているだけで、特別なことはやっていないし、やろうとも思わない。ただ『ここにこういうパスが欲しいんだろうな』というところにパスを出す、それをやるだけという感じです」

――そのためにも受け手の意図を読めたり、自分の意図通りに配球したりという技術が必要ですよね。どうすれば清武選手のようになれるんでしょう。

 「どうなんですか、僕はそんな、別に大したことはやってないですよ。技術練習だって小学校の時くらいしかやっていないし。正直、ボールをクルクル回したりとか難しい技なんてできないし(笑)。サッカーにおいて本当に基本的な、止めて蹴ったり首を振ったりとかくらいしか思いつかないですね。特にこれをしておけば、というのは全くないです」

――特別なことはしていないと言いながら、清武選手がピッチに入ると試合の流れも含め、すごく大きな変化が起きるんですよね。

 「ある程度、役割は決まっているし、経験の中でゲームを読む力などは、若い頃に比べればついているかもしれないですね」

Photo: OITA F.C.

「次はこうしてね」。味方に選択肢を与えないパスの強み

――以前、柿谷曜一朗さんが「キヨがピッチに入るとみんなが上手くなる」と話していましたが、どうしてそういうことが起きるか、ご自身で分析されたことはありますか。

……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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