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FFE計画はFIFAが繰り返す「改革の巻き戻し」の延長線上に過ぎない(前編)。2002年から鳴らされていた警鐘の正体

2026.08.26

【特集】W杯売却構想はフットボールを壊すのか?#4

史上最多の出場48カ国が世界一の座を懸けて争った北中米W杯の熱も冷めやらぬうちに、フットボールは新たな分岐点に立たされた。閉幕直後の7月28日に、FIFA(国際サッカー連盟)が来年から始まる4年サイクルで211の加盟各国協会・連盟に従来の倍額となる2000万ドル(約32億円)を分配できるという大義名分の下、W杯や女子W杯、クラブW杯などの商業イベントの運営を担う民営子会社「FIFA Forward Enterprise」(FFE)を新設し、その200億ドル(約3兆2000億円)と評価される株式の少数を売却して今年中に最大42億ドル(約6720億円)もの資金を調達していく“秘密計画”が浮上したからだ。「フットボールは誰の所有物でもない。ましてやFIFAが売る権利を持つものではない」(UEFA/欧州サッカー連盟)――猛反発を受けたW杯売却構想はわずか4日後に撤回される運びとなったが、波紋や余波は今も消えぬまま。その攻防と是非、そして未来を専門家の視点も交えながら読み解いていく。

第4、5回では、FFE計画はFIFAが繰り返す「改革の巻き戻し」の延長線上に過ぎない。根本的なガバナンス改革の必要性、すなわち「パートナーシップ型ガバナンス」の制度化が急務となっている歴史的背景を、前後編に分けてFIFPRO(国際プロサッカー選手会)本部の理事を務める山崎卓也弁護士が解説する。

最高幹部退任騒動にも「既視感」。根本は24年間変わっていない

 大きな批判を受けて撤回されるに至った「FIFA Forward Enterprise(以下FFE)」計画については、すでに多くの関係者や専門家から、FIFA(国際サッカー連盟)のガバナンス構造に起因する問題として幅広い批判がなされており、当然、本稿の主たるテーマもそこにあるが、まず冒頭で筆者が指摘しておきたいのは、この一連の騒動の中で、FIFA執行部の最重要人物の1人であったケビン・ラムールCOO(最高執行責任者)が、FFEについて「これはFIFAのプロジェクトではない」「ましてやFIFA事務局のプロジェクトでもない」「1人の人物のプロジェクトである」と述べ、さらにFIFA内部の事務局すら欺かれていたとして、一連の経緯を「一方的な権力行使(unilateral exercise of power)」と表現した点である。

 この姿を見て、2002年に、当時のゼップ・ブラッター会長によるFIFA運営について21ページに及ぶ内部報告書をFIFA理事会(当時FIFA Executive Committee/現FIFA Council)に提出し、その中で、会長への権限集中、不透明な財務管理、利益相反等、FIFAのガバナンスの根幹にかかわる疑惑を提起した、当時のFIFA事務総長ミシェル・ゼン・ルフィネンを思い出さずにはいられなかったのは、おそらく筆者だけではないだろう。

ゼップ・ブラッターとミシェル・ゼン・ルフィネン

 ゼン・ルフィネンの報告書は、当時のFIFAを「今日のFIFAはまるで独裁政治のように運営されている(FIFA today is run like a dictatorship)」とまで表現し、特にGOAL Programme、現在のFIFA Forwardに相当する開発支援制度について、各国協会・連盟への資金配分が会長の政治的支持を確保するための手段として利用されているとの疑念を示していた。

 あれから24年が経過したにもかかわらず、今回もまた、FIFA内部の最高幹部の1人が、1人の会長による権限行使のあり方そのものを批判し、その後組織を去ることになったという事実を見ると、国際フットボール界のガバナンスの根本的な問題は、実に長期間、何も変わっていないという現実があらためて浮かび上がっているといえる。

 ゼン・ルフィネンは当時、「私は辞任しません。恥じることなど何一つないからです」と公言していたものの、結果的にはFIFAを去ることとなった。この経緯は、『Netflix』が2022年11月から配信した『FIFA Uncovered(邦題:FIFAを暴く)』でも取り上げられているので詳細は割愛するが、今回のラムールもまた、FFE問題を受けてFIFA執行部の主要メンバーが招集されたモロッコ・ラバトでの会合には呼ばれず、その後FIFAを離れることになった。

『FIFA Uncovered』の予告編

 今回の騒動は、登場人物こそ異なるものの、本質的には過去に何度も繰り返されてきた歴史の延長線上にある。そして筆者が前回のフットボリスタでの論稿『北中米W杯開催の裏で追い込まれたFIFA。FIFPROとの歴史的合意「パートナー型ガバナンス」が踏み出す脱・過密日程への第一歩』でも触れたように、その本質的な原因の1つは、FIFAの最高意思決定が211の加盟協会・連盟による投票によって行われ、しかもその加盟協会・連盟自身がFIFAから多額の資金その他の便益を受けるという構造にある。

 本稿では、2002年以降のFIFAをめぐるガバナンス改革の歴史を振り返りながら、なぜ同じ問題が繰り返されるのか、そしてその繰り返しを止めるためには何が必要なのかを考えてみたい。

現状にも当てはまるミシェル・ゼン・ルフィネンの「指摘」

 前述したゼン・ルフィネンの告発は、名前こそ違えど、現在のFIFA Forwardに相当するGOAL Programmeについて、各国協会・連盟への資金配分が会長の政治的支持を確保するための手段として利用されているのではないかという問題意識を背景としており、その点で今回のFFE提案をめぐる問題と通底するものを持っていた。

……

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Profile

山崎 卓也

1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)本部理事、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。

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