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フットボールは誰のものか?4日で砕け散った3兆円規模の「FIFA Forward Enterprise」計画=W杯売却構想をめぐる攻防と分裂

2026.08.17

【特集】W杯売却構想はフットボールを壊すのか?#1

史上最多の出場48カ国が世界一の座を懸けて争った北中米W杯の熱も冷めやらぬうちに、フットボールは新たな分岐点に立たされた。閉幕直後の7月27日に、FIFAがW杯や女子W杯、クラブW杯などの商業イベントの運営を担う民営子会社「FIFA Forward Enterprise」を新設し、その200億ドル(3兆2000億円)と評価される株式の少数を売却して今年中に最大42億ドル(約6720億円)もの資金を調達しつつ、来年に始まる4年サイクルで211の加盟各国協会・連盟に従来の倍となる2000万ドル(約32億円)を分配していくという“秘密計画”が浮上したからだ。「フットボールは誰の所有物でもない。ましてやFIFAが売る権利を持つものではない」(UEFA)――猛反発を受けたW杯売却構想はわずか4日後に撤回される運びとなったが、波紋や余波は今も消えぬまま。その攻防と是非、そして未来を専門家の視点も交えながら読み解いていく。

第1回では、「フットボールは誰のものか」をあらためて突きつけられた激動の約2週間――前提となる「FIFA Forward Enterprise」計画をめぐる一連の攻防と分裂を、時系列に沿って整理してみよう。

 7月19日。ニューヨーク/ニュージャージー・スタジアムのお世辞にも素晴らしい状態とは言えない芝の上で、ダーティな脇役に徹したアルゼンチンをスペインがお馴染みのスタイルを貫き通して破り、史上2度目のW杯を手にした。

 開幕前から北中米W杯はあらゆる疑惑にまみれていたが、蓋を開けてみれば大会期間中も“バログン・ゲート”を筆頭に、疑わしいスポンサーシップ、論争を呼んだハイドレーションブレイク、決勝戦でのハーフタイムショーなど、様々な要素が純粋にフットボールを楽しみたいファンの心に影を落とした。スポーツからショーへ、そして政争の具へと変わりゆく競技の未来に大きな不安を抱かせる、そんな39日間だったかもしれない。

 だが、そんな裏の側面を吹き飛ばすように推定150億ドル(約2兆4000億円)という史上最高の売上を叩き出した煌びやかなW杯でさえ前座に見せてしまうような激震を与える事件が、わずか1週間後に全世界を駆け巡ることになろうとは、一部の関係者を除く誰もが予期していなかったに違いない。本稿では、その一連の時系列を可能な限り順に追い、想定される今後の展開について触れたい。

FFE計画は就職活動、脱税スキームでもあった?

 7月28日。初報は英国『タイムズ』紙。FIFA会長のジャンニ・インファンティーノが、W杯や女子W杯、クラブW杯などの開催権を新設の民営子会社「FIFA Forward Enterprise (FFE)」に与える計画を立てている事実が明らかになった。

 FIFAの説明によるとFFEは「FIFAの商業イベント運営を統合する、FIFAが所有・管理する新たな子会社」であり、FIFAはFFEに対する支配権と、フットボール競技の統治、大会、試合日程、規制に関する決定権を保持するということだった。

 FIFAは声明の中で、設定された株式評価額の200億ドル(3兆2000億円)の約20%にあたる最大42億ドル(約6720億円)を今年後半に調達し、開発プログラムの資金援助を行う予定だと述べている。これはあくまで「少数株主」であり、団体に対する支配権を持たない株式を購入する長期投資家を慎重に選定する、という説明も付け加えられた。

 表向きの説明としては、FFEは従来40億ドル(約6400億円)だった開発資金を100億ドル(1兆6000億円)にまで拡大することで、2030年までに「加盟国におけるインフラ、コーチング、代表チーム、大会、グラスルーツ、女子競技のさらなる発展」のために、現行の4年サイクルでは1000万ドル(約16億円)だった加盟各国協会・連盟への分配金を2000万ドル(約32億円)に増強することを目的としている。

 FIFAは本計画において、JPモルガンで資産運用部門トップとして辣腕を振るうメアリー・エルドーズと協力しており、彼女が選定に関わったという投資予定企業には、ジョシュア・クシュナーが設立したThrive Eternalが含まれた。彼の兄であるジャレッド・クシュナーは、インファンティーノ会長自身がFIFA平和賞の栄誉を与えたドナルド・トランプ米大統領の義理の息子である。

 エルドーズはかつてジェフリー・エプスタインの口座を管理していた資産運用の専門家として知られており、今もなおその関係について追求を受けている。FFEへの投資に関して同じく同氏との関係のあるトランプ大統領の親族を指名したことに特別な利害関係があったかどうかは不明である。

 また、『タイムズ』紙は、インファンティーノ会長が任期終了後、6400万ドル(約102億円)という莫大な年俸(現在の報酬額が460万ドル(約7.4億円)、その約14倍)で同組織のコミッショナーに就任する可能性も示唆した。

 端的に言えばFFE計画は、加盟各国協会・連盟に対し、主催大会の商業的利益の5分の1を、彼らが相談を受けてすらいない人物たちによって組織された外部資本(その中には近年インファンティーノ会長が蜜月を重ねるトランプ大統領の親族もいる)に委ね、会長の就職先確保の可能性も示唆する内容を受け入れるよう求めたものだった。

 多くの人が忘れがちだが、FIFAはスイス法に基づく非営利団体である。建前上は、加盟各国協会・連盟のためにフットボールを信託管理する組織として存在しており、活動によって得た利益をフットボールの発展に充てる義務がある。にもかかわらず、明らかに特定の個人・団体に莫大な利益をもたらすような商業的施策を積極的に実施することが、許されて良いのかは大いに議論の余地があるだろう。

 また、非営利法人が営利法人を運営するデメリット(つまり課税対象になること、そして脱税スキームと見做されるリスク)について、インファンティーノ会長やFIFAからの説明は現時点に至ってもされていない。

 同日、FFE計画に真っ先に反対の意を示したのはインファンティーノ会長の古巣、UEFAだった。公開された声明には、

 「これは、フットボールの統括機関が決して越えてはならない一線を越える行為だ」

 「フットボールの魂と統治は、売買の対象となる資産ではない。ましてや、誰が金銭的に利益を得るのかがまったく不透明な場合はなおさらだ」

 「フットボールは誰の所有物でもない。ましてやFIFAが売る権利を持つものではない」

 と強いメッセージが込められた。

FIFA内部からも反発が続出。財政面でも投げられた疑問

 同7月28日、8日前に就任したばかりのアンディ・バーナム英首相も、自身のXアカウントに「はっきり言っておこう。フットボールは投資家のものではない。毎週、雨の日も晴れの日も、スタンドを埋め尽くし、タッチラインに立つ人々のものだ」と投稿。「W杯は商品ではない。世界最大のスポーツ大会であり、決して誰かの所有物として売られるものではない。どんなに巧みに見せかけようとも、その一部でも売ってしまったら、もう売り渡したことになる」「フットボールはファンのものだ。これまでもそうだったし、これからもそうだろう」とフットボール母国の矜持を示した。

 7月29日。FFEへの非難が高まる中、インファンティーノ会長はFIFA加盟211協会・連盟それぞれにこの取引を承認するよう促すための特別提案を記した書簡を送っていたことが明らかになった。そこにはFFEの招致を承認する投票を行った各国連盟・協会ごとに単発で2000万ドル(2027年〜2030年サイクルの支援金2000万ドルと合わせて4000万ドル(約64億円)になる計算だ)の追加資金援助を来年1月1日付で行う旨が記載された。

 彼はまた、これらの国々に対し、9月中旬までに提案を受け入れるかどうかを決定するよう期限を設けた。この提案は、見方を変えれば各連盟に対して来年の会長選再選への見返りとして2000万ドルを渡す、という暗黙の賄賂行為とも取れ、その賄賂を人質に取った脅迫のようでもある。

 7月30日。この問題に対する大陸連盟による初の重要な動きとして、UEFAは加盟55協会・連盟すべてが、FFE計画が撤回されるまで、FIFA主催のイベントや大会への参加を拒否すると発表した。

 「W杯は投資商品として扱うことはできない」

 「フットボールにとってこれほど重要な提案が秘密裏に考案され、競技運営を担う関係者との有意義な協議を一切行わずに承認寸前まで進められたことは、無責任であると同時に弁解の余地もない」

 「これは単なる指導力の深刻な欠如にとどまらず、フットボールの守護者としてのFIFAの責務放棄である」

 「売ることのできない重要なものが存在する。W杯はフットボール競技のためのもので、今後もそれは変わらない。ヨーロッパが発言権を持つ限り、決して売りに出されることはないだろう」

……

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Profile

Yuki Ohto Puro

サミ・ヒューピアさんを偏愛する秘湯ハンター。他人の財布で食べる寿司と焼肉が好物(いつでもお待ちしてます)。主にマージーサイドの赤い方を応援しているが、時折日立台にも出没する。

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