日本が本当の強豪国になる日。「優勝宣言」と「フットボール文化」が映す頂点への距離
新・戦術リストランテ VOL.126
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第126回は、北中米W杯を終えた日本代表を総括。世界の強豪国と接戦に持ち込めるようになった背景には、[5-2-3]からハイプレスへ移行する新たな守備機構や、ウイングバックの起用法の進化があった。一方で、「優勝」を現実の目標にするには、なお越えなければならない壁もある。戦術、個の質、そしてフットボール文化——世界との差をあらためて整理する。
「優勝」を掲げるのは戦略的に「あり」か?
北中米W杯で、日本代表が「優勝」を目標に掲げていたことへの批判がSNS上で話題になっていました。目標なのだから「優勝」でいいのではないかという反論も出ていますね。
もし自分が監督や選手だったら、「8試合やるつもりで一戦一戦をプレーします」と言います。優勝と言ってしまうと、サッカーをあまりよく知らない人が本気にするからです。一方で、一つひとつの試合を勝ち続けていけば優勝に近づくので、特に優勝の二文字を出す必要はない。自分たちは密かに本気で優勝を目指しつつ、世間的に無用な期待を煽ってハレーションが起こるのを避ける。他国へのリスペクトもあります。リスペクトというか、対戦相手の燃料になり得ることは一切口にしないというのは、こういう大会の鉄則ですからね。
今回は、「あえて」言っていたと思います。
自分たちは本気なので、皆さんの力をください。そういうことではないでしょうか。つまり、日本はまだ強豪国ではないからです。本当に優勝がノルマになっている国であれば、自分たちにプレッシャーがかかってくるような言い方はしないと思います。国民的な関心が異常に高く、応援してくれるのはわかっているので、それ以上に煽る必要はないわけで。
では、今後も日本代表は「優勝」を目標に掲げていくのでしょうか。たぶんそうすると思いますが、個人的にはあえて言わなくてもいいんじゃないかという気がしています。ずっと「優勝」と言い続けて優勝しないままだと、誰も本気にしてくれなくなってしまうので。
日本が優勝する可能性はあります。なぜなら、すでに強豪国を倒せる力は持っているからです。全部倒せば理論上は優勝できます。90分間でスペインとアルゼンチンに負けなかったカーボベルデも理論上は優勝可能です。
ただし、現実に優勝しているのは強豪国だけですから、優勝を現実的にとらえられるようになるには、まず自他ともに認める強豪国になる必要があると思います。
1998年に開催国として初優勝したフランスは、その時点でぎりぎり強豪未満でした。2度目の優勝を成し遂げた2018年で自他ともに認める強豪国になったとすると、20年かかっています。2010年大会で初優勝したスペインは一発で強豪国の仲間入りを果たしました。なぜなら、戦術的なパラダイムシフトを起こしており、その時点で比類のない無双状態だったからです。ただ、その戦い方を確立するまでにやはり20年を擁しました。EURO2008優勝が新しいスペインの始まりとすると、その起点は1988年だからです。ヨハン・クライフがバルセロナの監督に就任した年ですね。
日本はまだW杯1大会で5試合目を経験していません。強豪国に行き着くまでに軽く20年以上はかかると思われます。その間、優勝と言い続けたいならそうしても良いですが、道のりの長さを認識しているなら、やめておいた方が良い気がするというだけです。
強豪国を倒せる存在と、強豪国であることは違う
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
