「線が強い」将軍——デシャンがフランス代表に植えつけた「前進する力」
新・戦術リストランテ VOL.125
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第125回は、最強軍団フランス代表を率いるディディエ・デシャンの原点。彼の強さは戦術ボードの上ではなく、リーダーとして現役時代から貫いてきた「前進する力」という哲学にある。90年代にパリ在住経験もある西部謙司氏が、98年W杯優勝から現在まで続く“デシャン・フットボール”の本質を読み解く。
将軍の器
その時のASモナコにはクラブハウスがありませんでした。財政難で降格しそうな瀬戸際。クラブハウスの代わりに、キャンピングカーのトレーラーが5つくらい置いてありまして、そこでスタッフが会議をしたり、選手がマッサージを受けたり、1つのクラブハウスの機能を複数のトレーラーに分散しているようでした。
03-04シーズン、ディディエ・デシャン監督のインタビューもトレーラーの中で行いました。マッサージベッドが椅子替わり。モナコを率いて3年目、このシーズンのCLで準優勝しています。当時35歳ですね。現役引退してすぐ監督になりました。
「この人はきっと大きな仕事をするだろうな」と直感したのを覚えています。私の勘が冴えているわけではなく、たぶん誰にでもそう感じさせる何かがあった。それが何かを説明するのは難しいのですが、良い意味でとてもシンプルな人柄でしたね。
これは元スター選手に共通する特徴かもしれませんが、自分を大きく見せようとしない。すでに認められてきたからでしょう。率直で裏表がなく自然体。明晰。芯の強さと不退転の決意がにじみ出ていました。
偶然、練習場で一緒になった人がナント時代のチームメイトで、その人が言うには「天性のリーダー」とのこと。確かに20歳でキャプテンでしたからね。
デシャンにもきっと悩みはあるのでしょうが、そういうものが表に一切出ない。余計な屈折が皆無。やや古いタイプのヒーローと言いますか、やると言ったらやり遂げる感じしかしない。絵に描いたようなリーダーシップ、有無を言わさぬ求心力ですね。
もう現役時代から監督みたいでしたが、率いたチームはプレーヤーとしてのデシャンと重なるところがあります。また、フランス代表も彼が主将として勝ち獲ったW杯初優勝から、脈々と継承されてきたものがある。
抽象的な言い方ですが、「線が強い」。線が細いという言い方がありますけど、それで言うとデシャン本人およびデシャンのチームはことごとく「線が太い」です。
フランスにW杯初優勝をもたらした「前進する力」
……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
