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北中米W杯開催の裏で追い込まれていたFIFA。FIFPROとの歴史的合意「パートナー型ガバナンス」が踏み出す脱・過密日程への第一歩

2026.06.18

北中米W杯を深く味わうための論点#6

6月11日に開幕した北中米W杯をより深く味わうために、本特集では「戦術」「監督」「報道」「政治」「環境」など多角的な視点から、世界最大の祭典を掘り下げていく。第6回のテーマは「環境」だ。

6月10日、北中米W杯開催直前に国際サッカー連盟(FIFA)と国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は、「国際労使協議プラットフォーム」の設立をはじめとする合意を発表した。この歴史的な改革の裏でFIFAを追い込んでいた2つの判決を振り返りつつ、「パートナー型ガバナンス」で踏み出す脱・過密日程への第一歩を、FIFPRO本部の理事を務める山崎卓也弁護士が解説する。

 前回のカタールW杯の前、増え続ける国際試合の数と選手の負担という「コスト」の問題、そして、それを解決するための「エコシステム」としてのガバナンス変化の必要性について筆者が説明したインタビュー記事(『吉田麻也「地球8周分」移動の裏にあるサッカーエコシステムの中央集権問題』)から約3年半。国際プロサッカー選手会(FIFPRO)が公表した、選手の負荷に関する「ワークロード・レポート」でも示された、当時の吉田麻也・日本代表キャプテンの「地球8周」の負担に代表される、著しい国際試合数増加問題とそれへの対処については、今もなお、欧州トップリーグでプレーする選手のケガのニュースが絶えないものの、この3年半、着実に変化に向けた動きが続いてきた。

 そして、このたび、北中米W杯開幕直前の2026年6月10日(日本時間同11日未明)に発表された、FIFAとFIFPROの新しい合意により、FIFAの意思決定システム・ガバナンスの歴史的な改革としての「国際労使協議プラットフォーム(Global Social Dialogue Platform)」の設立が行われることになり、増え続ける国際試合という問題に関して、ついに明確な改革が実現した。つまり、今後は、FIFAが新しい大会を創設したり、移籍ルールを変更したりなどといった労使関係に関わる決定をする場合は、必ず、クラブ/リーグと、選手会(FIFPRO)によって構成される「国際労使協議プラットフォーム」を通じて決定するという形に変わったのである。これは、FIFA加盟の211の協会のみの投票によって、あらゆることが決められていた従来の意思決定システムからの歴史的な改革となる。

 一体この3年半における何がこの変革をもたらしたのか。そしてどんな未来が訪れようとしているのか。北中米W杯が開催されるこのタイミングで、この3年半の変化と未来について整理することとしたい。

イングランド代表の「大量離脱」からも明らかな「コスト」の深刻化

 前回W杯同様、北中米W杯に出場する各国代表の主力選手が、大会前の大ケガでW杯出場を断念するケースが今回も相次いでいる。そしてそれが、増え続ける選手への負担によるものであるという意識も高まってきており、実際、日本代表が歴史的勝利を収めた2026年3月のイングランド戦の前に、CLの重要な試合を控えたアーセナルの選手が、イングランド代表から「大量離脱」したことからも明らかなように、ビッグクラブを中心に、主力選手をケガから保護しようとする具体的な動きは、以前よりも顕在化してきている。W杯への出場が濃厚な選手が、リーグ戦終盤の試合を欠場することが増えてきているのも、現状のカレンダーの中でのリスク管理としては、やむを得ないという状況もある。

 どんなに科学技術が発展しようとも、人間のケガの完全な予測は不可能であり、また、コンディションは、直近の連戦の数、移動距離、トレーニングの負荷等ばかりでなく、ここ数年スパンでどれだけ長期休暇を含む完全休養の時間が取れたかなど、様々な要素に影響される。これに、年齢や精神的負荷などさらに多くの要素が重なって、ケガは現実化する。選手にとってはそれが選手生命に関わるものであれば、人生をかけた職業の喪失を意味し、クラブにとっては、CLに代表されるクラブの運命を左右する試合の直前であれば、時に数十億円クラスの損失につながりかねない。こうした「コスト」の大きさは、3年半前よりも、より見える形で問題となってきたといえる。

ESLとディアラをめぐって。FIFAとの戦いを動かした2大判決

 これだけの「コスト」の深刻化を招いた、国際試合の増加の根本的原因について、3年半前のインタビューでは、放映権ビジネスの特性と、FIFAおよび大陸連盟による国際マッチカレンダーの意思決定システムが要因となっていると述べた。特に後者が重要で、それは、FIFAおよび大陸連盟の意思決定が、加盟各国協会のみの投票によって行われ、そこに、プロサッカーにおける重要なステークホルダーである、クラブ/リーグと選手会が票を持たない仕組みになっているという問題であったが、この3年半で、これをめぐる状況に激しい動きがあったのである。

 その動きを生むに至った最大の要因は、FIFAのガバナンスのあり方について明確に変化を求める、欧州司法裁判所の2つの歴史的判決が下されたことである。

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Profile

山崎 卓也

1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)本部理事、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。

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