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誰が東京ヴェルディを救うのか。2020年、コロナ禍の経営権闘争の行方

2026.05.16

泥まみれの栄光~東京ヴェルディ、絶望の淵からJ1に返り咲いた16年の軌跡~#12

2023年、東京ヴェルディが16年ぶりにJ1に返り咲いた。かつて栄華を誇った東京ヴェルディは、2000年代に入ると低迷。J2降格後の2009年に親会社の日本テレビが撤退すると経営危機に陥った。その後、クラブが右往左往する歴史は、地域密着を理念に掲げるJリーグの裏面史とも言える。東京ヴェルディはなぜこれほどまでに低迷したのか。そして、いかに復活を遂げたのか。その歴史を見つめてきたライター海江田哲朗が現場の内実を書き綴る。

第12回は、2020年、コロナ禍の激動の中でもがくチーム、と同時に、非常事態による財政難に端を発する経営権をめぐる争いについて、当時の肉声とともに詳細に描く。

新型コロナウイルスに襲われた激動のJリーグ

 新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年。Jリーグは6月15日、およそ4ヵ月のリーグ中断を経て、再開後の試合日程を発表する。東京ヴェルディは27日、J2第2節のFC町田ゼルビア戦からリスタートとなった。

 J2は第3節まで観客を入れずに試合を開催する。無観客試合に代わる新名称は「リモートマッチ(Remote Match)」、略して「リモマ」に決まった。村井満チェアマンは新たに組み直した日程を発表できたことについて、「ひとまず、ほっとしています。ただし、今後、新型コロナウイルスの第二波、第三波の到来や、不測の事態が起こることも考えられます。クラブの関係者、ファン、サポーターの皆さまと、無理をせずに積み上げていきたい」と話した。

 24日深夜、Jリーグからのメールを受信する。「明治安田生命J2リーグ第2節 東京V vs 町田 @味スタ 取材申請却下のお知らせ」。あり得るだろうと考えていたので、さほど落胆はなかった。今回、新型コロナウイルス対策の一環で、ペン記者の枠は25に制限されていた。いつもならまったく問題ないが、今回はコロナ禍における社会的関心事だ。しかも、場所は都心からアクセスのよい味の素スタジアムである。取材申請の殺到は容易に予想できた。

 上限枠の優先順位はあらかじめJリーグから公表されており、私の属する「登録フリーランス」は最も下のカテゴリー5である。どうやらフリーランスまで枠が回ってこなかったらしい。非常時はこうやって機会を損失することがあるのだ、と身をもって知った。

 思えば、2001年から東京Vの取材を始め、20年目の節目となるシーズンである。これまでホームゲームを不在にしたのは1回あったのみ。年代別代表の海外遠征の取材で、やむなく見送ったのを記憶する。

 めったにない自宅リビングでの観戦を満喫すべく、焼きそばとフランクフルトにラムネを付けるお祭りセットを用意。とはいえ、試合後のリモート会見に備えてメモを取らなければならない。結局、落ち着かない気分で飲み食いし、あまり楽しめなかった。東京Vは開始早々、平戸太貴に先制点を許すも、終了間際に藤本寛也がPKを決めて同点に追いつき、辛うじて勝点1を確保した。

 中断期間明けの東京Vは、開幕時のチームとはほぼ別ものだった。

 「新しく入った選手の戦術理解が進み、チームのやりたいことをより徹底し、深くやれるようになりましたね。おかげで、攻撃パターンの精度が上がり、新しいことにもチャレンジできるようになった。攻撃のバリエーションは豊富になっています」と佐藤優平。活動停止中はオンラインのミーティングを重ね、戦術の浸透が格段に進んだと選手たちは口々に話した。

ピッチに漂う閉塞感の正体

 待望の初勝利は7月15日、第5節のヴァンフォーレ甲府戦だった。井上潮音が2得点をマークし、井出遥也、若狭大志のゴールで4‐2。ここから東京Vはゲームの充実度を高め、やがて上昇気流をつかまえる。8月12日、第11節アビスパ福岡戦(3‐1)から3連勝し、過密日程をものともしない勢いで勝点を積み、一気に5位まで順位を上げた。

 ところが、夏を過ぎて東京Vはにわかに勢いを失う。9月5日の第17節、19位の愛媛FC戦を0‐1で落とし、第19節のザスパクサツ群馬戦(1‐3)、第20節のレノファ山口FC戦(1‐2)と最下位のチームに連敗した。実質的に、この時点で昇格の資格を失ったも同然だ。通常のレギュレーションなら降格圏に低迷する相手からドローも拾えないようでは上を望むのは難しい。10月27日、第27節栃木SC戦(0‐0)から6戦未勝利。自動昇格圏の2位との勝点差は開いていった。

 井上潮音は言った。

 「いい勝ち方ができた試合もありましたが、内容的には自分たちの目指すものにはほど遠い出来。個人的にもうまくいったと言えるゲームはひとつもありません。相手に合わせたプランを持って試合に入り、うまくいくときは狙いどおりの攻撃ができましたが、問題は見込みと違ったとき。監督に言われたとおりにやろうとしすぎた結果、よくない試合になることが多くありました。ピッチでやるのは選手なんだから、状況に合わせて判断を変えていかなければいけない。そのあたりの対応力が低かった」

井上潮音(Photo: Tetsuro Kaieda)

 プランを持ってゲームに臨むのは相手も同様だ。東京Vが限られた時間で念入りに対策すれば、それを見越して手を打たれることもある。東京Vのサッカーは相手から研究され、特長であるはずのポゼッションの巧さ、コンビネーションを武器として成立させられず、一方、カウンターの威力は凡庸とあって攻撃が手詰まりとなってゆく。

 新型コロナウイルスによるリーグ中断は、東京Vに戦術の浸透というメリットをもたらした。が、そのしわ寄せを受けて極端な過密日程を戦うことになった。トレーニングの時間でチーム力を向上させていく、あるいは新たな打開策を見出すのは困難で、ほとんどが細部の調整とコンディショニングに費やされることになったのは明確なデメリットだ。

……

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Profile

海江田 哲朗

1972年、福岡県生まれ。大学卒業後、フリーライターとして活動し、東京ヴェルディを中心に日本サッカーを追っている。著書に、東京Vの育成組織を描いたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)。2016年初春、東京V周辺のウェブマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を開設した。

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