“3度目”の試練はW杯絶望の重傷…それでも必ず、ウーゴ・エキティケは強くなって帰ってくる
おいしいフランスフット #27
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第27回(通算185回)は、リバプールとフランス代表にとって「大きな痛手」となった“背番号22”の長期離脱……これまでも様々な困難に見舞われながら、そのたびに「成長」を遂げてきた23歳の足跡を振り返りたい。
デシャン監督「最高のパフォーマンスを取り戻すと確信している」
4月14日に行われたチャンピオンズリーグ準々決勝第2レグ、リバプール対パリ・サンジェルマン(PSG)は、ウスマン・デンベレの2ゴールでPSGが0-2で快勝。第1レグと合わせて4-0の完全勝利で、昨年に引き続き、ベスト4入りを決めた。
PSGファンは歓喜に酔いしれたが、その一方で、フランス代表ファンにとっては悲しい出来事が起きてしまった。
リバプールの今季チーム内得点王、ウーゴ・エキティケがアンフィールドで右足首を負傷。診断の結果はアキレス腱の断裂で、シーズン終了が決定。ワールドカップ出場の望みも絶たれてしまったのだ。
昨年7月にブンデスリーガのフランクフルトからリバプールに加入したエキティケは、開幕戦から先発出場していきなり1ゴール1アシストを記録。スピード感やフィジカル面のタフさなど順応が難しいと言われるプレミアリーグで挑戦1年目にして、ここまで公式戦17ゴール6アシストと23得点に絡む大活躍だった。昨年9月にデビューしたA代表でも3月のブラジル戦(○1-2)で得点を奪うなど、今夏のW杯出場メンバー入りは確実視されていた。
この残念なニュースを受け、フランス代表のディディエ・デシャン監督も、エキティケに励ましのメッセージを送っている。
「ウーゴはここ数カ月の間に代表デビューを果たした十数名の若手選手の一人。彼はピッチの中でも外でも、チームに完全に溶け込んでいた。このケガは、彼自身はもちろんのこと、フランス代表にとっても大きな痛手だ。彼の落胆は計り知れない。しかし、ウーゴは必ず最高のパフォーマンスを取り戻すと確信している。私個人、そしてスタッフ一同より心からの激励を送りたい。彼もまた、フランス代表を全力で応援してくれることだろう。我々も全員が、彼に想いを寄せているよ……」
フランス代表を応援する人々の中でも、とりわけ落胆しているのは、中村敬斗と関根大輝が現在所属するスタッド・ランスのサポーターたちだ。
エキティケはランスの出身で、スタッド・ランスの下部組織で育成を受けてプロデビューを果たした生粋の地元っ子である。ランスで生まれ育ち、スタッド・ランスでのキャリアを経てフランス代表選手になったのはロベール・ピレス以来。ゆえに現地の人たちにとってエキティケは、息子のように成長を見守り、ランスを去った今でも声援を送る存在なのだった。
プロデビュー目前のパンデミック、デンマーク武者修行の決意
23歳という若さでリバプールの中心選手となったエキティケ。そんな彼のキャリアは一見順風満帆だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
父はカメルーン出身。小さい頃からボール遊びに夢中で、同じ託児所に子供を預けていた親御さんが地元のサッカークラブのコーチに「いつもボールで遊んでいる子がいる」とウーゴ少年を紹介したことから、このクラブでサッカーを始めることになった。スタッド・ランスの本拠地オーギュスト・ドゥローヌからもそう遠くない、コルモントルイユという名のクラブだ。
その頃からすでに背が高くて痩せ型の、今のような体型だったらしいが、足下のテクニックとスピードはズバ抜けていて、大会ではいつも大量得点を決めていた。
と同時に、ゴール前でチャンスがあっても、自分が打つより仲間に打たせた方がいい場面では迷わずパスを選ぶような、少年プレーヤーには珍しい「その瞬間で最も賢い選択をする」意識の高い子供だったという。
11歳でスタッド・ランスのアカデミーに入門してからは、あらゆる年代で飛び級し、上の年齢の子供たちに混ざってプレーしていたエキティケ。17歳の冬には、Bチームに所属しながらトップチームの練習にも呼ばれるようになり、プロデビューも間近かと期待された。
ところが、そんな矢先に世界中を襲ったのが、新型コロナウイルスのパンデミックである。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
